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The Asahi Shimbun Asia Network
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 一線から
AANの研究チームが、取材・調査の過程で直面したこと、考えたことなどを、随時リポートします
患者さんに接して
大島堅一
「アジアの環境と開発」チーム

 この夏、水俣病等の公害病に40年以上かかわっている熊本学園大学の原田正純先生とともにフィリピンを旅しました。返還された基地周辺で発生している環境汚染被害の実態解明が目的です。原田先生と海外でご一緒させて頂くのは今回で2回目でしたが、実際の診察をみる初めての機会でした。大変貴重な体験です。

 ホテルで原田先生を囲んでお話をした際、治る可能性のほとんど無い患者さんに対して医学者はどのように接するのかということが話題に上りました。「治療しても、治るとはっきり言えるものではありません。希望を持ち続けてくださいと言うしかありません。それが患者さんを励ますことにもなります」と原田先生。

 次の日、実際に子供の患者さんとそのお母さんに接する原田先生の姿を拝見しました。「少しずつ周りの人たちに追いつくしかありませんが、希望を捨てないで頑張ってください」との原田先生の言葉に、お母さんは少し涙ぐみながら、「私は希望だけは絶対に無くしたことはないんです。必ず治ると信じています」と子供を抱きながら明るく答えていました。大変心を打たれた瞬間でした。

 非常に貧しい家庭も訪れましたが、どのお母さんも、決して希望を捨てることなく、子供にはその家庭ができる精一杯の治療を行ってました。皆さん苦しいことは共通していました。しかし、決して絶望しているわけではありませんでした。

 公害病は、治療をしても治らないものが多いと言います。治らない病気に苦しむ患者さんにどう接すればよいのか。医学者は、少なくとも、現場で専門家として励ますことができます。しかし、私のような社会科学者は何ができるのでしょうか。環境問題・公害問題を対象にする社会科学者に対して現場から突きつけられる大きな課題です。


■追 記■

伊藤景子
「アジアの環境と開発」チーム

 南アのヨハネスブルグで開催中の環境開発サミット。2日、日本の小泉首相が演説に立ち、「自らの暗い経験の轍を友人には踏ませない。これこそが先進工業国ができる最大の貢献だ」と述べました。日本の公害経験の失敗を友人・隣人である開発途上国に伝えよう、という趣旨です。これはまさに、われわれ「アジアの環境と開発チーム」が8月24日付の特集「アジアの環境と開発の10年」で放ったメッセージそのもの。演説の文案は、大島先生の論考にある「アジア各国が先進国の失敗の教訓を生かした環境政策をつくるかどうか。それが地球環境の運命を決める」や、原田正純先生の「(日本がアジアに伝えるべきは)」痛みを伴う失敗だ」というくだりのパクりではないか、と思わせるくらいです。

 演説を伝える9月3日の朝日新聞には、この肝心な部分は残念ながら載りませんでした。最初の原稿(ちなみに筆者は吉田貴文研究員)にはもちろん、あったのですが、紙面のスペースの都合で削られてしまいました。

 ともあれ、わたしたちのメッセージが首相の演説を通して、全世界に伝わったことを喜びたいと思います。

2002年9月5日
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