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 一線から
AANの研究チームが、取材・調査の過程で直面したこと、考えたことなどを、随時リポートします
ナショナリズム再考
永持 裕紀
「動く中国とつきあう」研究チーム

今回は、中央大学文学部を今春卒業する、小山佳孝さんの寄稿を掲載したいと思います。この原稿についての私の感想は、次回の私の「一線から」にまとめます。感想のさわりをちょっとだけ紹介すると、私が関心を引かれたのは、小山さんが「日本学生のうち、『ナショナリズム』という言葉の実質について自分なりに考えたことのある人は、私も含めていなかった」と記しているところです。今年の春からのアジアネットワークの研究テーマのひとつに、「アジア(ともちろん日本)のナショナリズム」を掲げようと考えています。

小山さんの原稿のタイトルは「ナショナリズム再考」です。

* * *

最近の憲法改正論議や教育基本法見直しで、「国を愛する気持ち」を強調する動きがある。「国」や「ナショナリズム」という言葉の中身をよく考えてみるべきだと思った経験を紹介したい。

社会学を学ぶ大学のゼミ仲間とともに、昨年のワールドカップ大会に対する日韓の大学生の意識調査を昨年9、10月に実施した。韓国チームの躍進と韓国人サポーターの熱狂ぶりが目を引いた大会だったが、若者を対象にした調査結果の日韓比較によって、韓国サポーターを盛り上がらせた意識を探りたいと私たちは考えた。

調査対象は、日本では中央大学の学生約500人と中央大学以外の大学生約500人の計1000人、韓国では延世大学(ソウル)の学生約250人と延世大学以外の韓国学生約250人の計500人。その結果、韓国では「大会中、自国の代表チームを一番に応援した」という答えが9割強だったが、日本では7割足らず。「大会は自国をアピールするイベントだった」と考える韓国学生はやはり9割強だったが、日本学生の答えは同じく7割に満たなかった。また、日本の学生の約7割は共催を「よかった」と評価したが、韓国では約7割が「単独開催のほうがよかった」と回答した。調査結果は日韓学生の様々な意識差をはっきり映し出した。

韓国の若者の応援スタイルは、「スタジアムや広場などで、大勢の集団の一員として」というのが一般的だったことも改めてわかった。これらの結果から、私たちは、韓国の若者は大会を「国家的なイベント」として考えていたという結論を導き、日本の若者に比べて韓国の若者のほうが「自国に対する意識」が強い、「強いナショナリズム」(Hard Nationalism)があると表現した。

ところが、このほどソウルを訪れて延世大学の学生と討論したところ、この言葉に韓国の学生から批判的な見解があがった。「私たちはただ単に、予想外に健闘した韓国チームの試合を楽しみ、盛り上がっていただけ。それなのにナショナリズムなんて言葉を持ち出されると……」という困惑が口々に語られた。

韓国の学生は「自らの国」を強く意識しながら集団で観戦をした||。私たちは「ナショナリズム」という言葉について、こう説明を重ねた。だが詳しく話し合ってみたところ、韓国の若者は、まず自分たちと年齢の変わらない、仲間ともいえる選手たちの活躍に興奮し、盛り上がった。つまり、「まず国」ではなくて「人」を応援していたというわけだ。確かに「大会は自国をアピールした」などの回答は日本と比べて高率だったが、「仲間」の健闘が盛り上げた大会を高く評価することは、自然で健康なナショナリズムではないかと私は考えた。それは多かれ少なかれ、ワールドカップ期間中の日本の若者にも見られたことだったから。

振り返ってみると、今回の調査に参加した19人の日本学生のうち、「ナショナリズム」という言葉の実質について自分なりに考えたことのある人は、私も含めていなかった。それにもかかわらず分析結果に何気なく用いたわけだが、ナショナリズムにも、「人」の前に「国」が優先された戦前の日本のような形もあれば、日韓サッカーが醸し出した健康的なものもある。最近のナショナリズム論議が求めているのは結局どんなものなのだろうと考え始めたのは、韓国の学生たちからこの言葉をむやみに使うことに「待った」をかけられた時からだった。   

2003年3月14日
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