「アジアに開く」というとき、日本の周りのアジア各地の社会がどれだけ猛烈に変化しているかということを、日本人はもっともっと知る必要があるでしょう。
島でできている「国」であること、輸出、ことにアメリカへの輸出で急速な経済発展を遂げたこと、けれど最近は中国への工場移転が続き、産業空洞化が深刻になっていることーー。台湾はいくつかの点で日本と似たような事情を抱えたところです。2000年、国民党から民進党への政権交代を実現し、政治の民主化を完全に実現した形となりましたが、それ以降経済が減速し、陳水扁政権は人心をつかみ得ていません。米国経済の落ち込みもあるのですが、中国要因も無視できない様子です。なにせ台湾の就労人口約1000万人に対し、中国大陸で台湾企業が雇用している労働者が早くも1000万人に近づいているという推計もあります。経済原理でいっても、台湾内の景気の落ち込みは避けられない理屈になります。
台湾きっての社会学者で、いまは「総統府国策顧問」という肩書を持つ蕭新煌(シャオ・シン・ホァン)さん(54)がこのほど来日しました。米国などのアジア学者の間では、「マイケル・シャオ」としてよく知られています。蕭さんが強調したのは、この30年間、台湾が漸進的に、けれど着実に変わってきたことです。国民党の統制がまだまだ厳しかった1970年代、文学や音楽など文化分野から台湾出身者(人口の7割以上を占める)の本音が語られ始め、80年代、環境問題や社会福祉の充実を求める社会運動が盛りあがる。そして90年代、政党政治も含めての政治改革、民主化が進む。では、この先台湾はどこに進むのか。「新しいアイデンティティを探し始めているが、なかなか見つからない。今後の台湾を考えるとき、『中国ファクター』が大きな要素となるが、その中国(大陸)が今後どうなるのかが見通しにくいこともその理由のひとつだ」と蕭さんはいいます。「受け身」の姿勢というわけでしょうか。ならば、現在の事実上の経済統合が進めば進むほど、「中台統一」は不可避なのでしょうか。
この問いに対して、蕭さんは明確に否定しました。「台湾は少なくとも30年かけて変わってきた。大陸が同じように変わるのにも、同様に長い時間がかかるだろう」。この30年間をかけて、台湾の人々は(一般庶民も含めて)、自分たちが社会の「主人公」だという意識を前へ前へと押し出してきた。そうした権利意識、権力を自分たちがチェックするという政治意識がフルに発現したのが、2000年春の総統選挙(での政権交代)でしたが、蕭さんの話を聞いていて、台湾人のそうした意識を改めて思い出しました。こうした意識の強さを中国当局が理解しない限り「統一」は難しい。逆に、この先中国内でも高まるに決まっている人々の権利意識に対して中国当局が有効な手を打ち、いわば中国式の民主化、政治改革を進めていくならば、それは「統一」への地ならしにつながると言えるのでしょう。
韓国でもそうですが、国家元首を人々が直接投票で選ぶことのできる社会は、政治が面白くなります。翻って日本はどうでしょうか。たとえば「一票」に賭ける真剣さをアジア諸国・地域と比べてみることも、私たちのチームの今後の展開のひとつとして考え始めています。
蕭さんは、日本人にこんなアドバイスをくれました。「グローバル化はもう避けられない。台湾でも、日本のドラマ、アニメ、韓国のドラマを若者たちが夢中になって見ている」というのが、蕭さんの考え方ですが、「世界各国の良いものはほとんど日本で買うことができる。モノの面では、グローバル化を日本人は大いに享受している。これから肝心なのは心のグローバル化だ。具体的には外国語を使う層がもっと分厚くなればいいと思う。英語であれ何語であれ、とにかく日本語以外のものを駆使して、国際社会の息吹をダイレクトに吸う日本人が増えていけば日本はもっともっと活性化する。心の壁を壊せないでいることは損です」
(私たちのチームの客員研究員の一人、佐藤幸人・アジア経済研究所研究員がこのほど台湾から帰国しました。これまで2年間、佐藤さんが台湾で見聞したこと、考えたことが、日本台湾学会のサイトに「台北便り」として掲載されています。(http://wwwsoc.nii.ac.jp/jats/archive/satotaipei.htm)