新聞社にも定期的な人事異動があります。国際報道を担当する外報部の歓送迎会が昨夜ありました。タイ語を習得し、バンコク、ニューデリーを拠点に、東南アジアや南アジア地域についての精力的な報道を続けてきた朝日新聞の先輩の宇佐波雄策さんもその席にいました。バンコクのアジア総局長だった宇佐波さんは定年(60歳です)より少し早めに退職し、九州国際大学アジア共生学科の先生になります。アジア共生学科という組織の試みが始まっているのだと、私は新鮮な思いにとらわれました。
調べてみると、誕生してもう4年が経つそうです。その中心となった小林慶二さん(やはり朝鮮半島問題などを担当した朝日新聞OBです)は、設立の趣旨をこうまとめています。「アジアで活躍できるビジネスマンを育成する学科を創立して7年あまり、アジアとの本当の交流は『カネとモノ』だけではダメで、『アジアと草の根で、心と心で付き合える人材』が必要であり、その『キーワード』が『共生』だと考えたからです」
私自身、アジアネットワークで仕事をさせてもらって2年が経ちました。最初の年は「中国とどうつきあうか」、今年度は「アジアに、日本がどういう風に開いていくことができるか」がテーマでした。ただ、考えてみると、ふたつのテーマに共通するのは、「アジアのなかで、アジアの人々と、日本人がこの先どのように共生できるのか」ということでした。
私たちのチームの最後の特集が予定より少し遅れ、3月3日の朝日新聞朝刊に掲載されました。その後、ご意見や感想をいただいた方々に心からお礼を申しあげます(批判も含めてご意見をもらうのは、少なくとも私は嬉しいです。記事が読み手に届いているなと実感できるからです。新聞で見逃した方も、このホームページに掲載されていますので、ぜひ読んでください)。中に、こんなご意見がありました。「日本人が明治以来アジアを蔑視し、大きな害悪をもたらしてきたというが、そうではないという考え方もある。こうした意見を掲載せず、どうして一方的な紙面を作るのか」
「そうではないという考え方」は、たとえば「19世紀から20世紀にかけての帝国主義の時代、日本が朝鮮半島を植民地にしたりしたことには歴史的な必然性があった」といった意見だと思います。まとめてしまえば、日本のこれまでの進み方、あり方を、もっと肯定的に、誇りを持って考えるべきだという考え方なのでしょう。もちろん私も、(少々変わった名字ですが)日本で生まれ、日本で育った日本人であり、たとえば日本酒や日本の四季折々の美しさは大好きです。たとえばたまたま昨年秋、飛行機から見た中央アルプスの紅葉、黄葉の見事さは、日本に生まれてよかった、という思いを確かに実感させるものでした。その限りの「愛国」は、よく分かります。けれど、こと近現代史になれば話は別です。日本のアジアとのかかわり方の結果、1945年8月に一度「日本という国家」が大きく崩れたこと(その過程で巨大な数の日本人もアジア人も亡くなったこと)の教訓は、世代を問わず日本人一人ひとりがもっともっと考えていいはずだと思います。そして、そのかかわり方の大きな特徴は、「(アジアに向かって)閉じる」というものだったのではないでしょうか。
だから、今年度、「アジアに開くために、日本はどうしたらいいのか」を考えてきました。最終特集では、趙景達さんがなぜ明治以降の日本人はアジアに向かって閉じてきたのかという精神構造をまとめました。佐藤幸人さんは、グローバル化が進むなかでどう開くべきかという点について具体的な意見を書きました。そう、グローバル化という、世界を均一にならそうという大きな動きが進んでいる最中だからこそ、「開く」ということにはまた違った難しさが生まれてきていると、活動の最後になって私たちは分かってきました。この点については、来週掲載されるはずの私の担当としては最後になる「一線から」で、もっと詳しく触れたいと思います(それは私自身の転勤報告も兼ねます)。
九州国際大学の小林さんはこの春、アジア共生学会を立ち上げるそうです。全国学会ですが、アジアとの交流が東日本より一段と日常化している九州に拠点を置くユニークな学会になりそうです。4月には元首相の村山富市さんが「政治家から見たアジアとの共生」について語る講演会もさっそく企画されているようです。設立趣意書にはこうあります。「『共生』という言葉は、環境保全と関連して語られるケースが多かったように思います。しかし京都議定書の蹉跌は、環境問題が優れて経済問題でもあることを示唆しています。いや、文化、宗教などあらゆる面で『共生』を論じなければ多くの成果が望めないことが明らかになりました。私たちは『共生学』という学問は、議論だけではなく、各分野での実践を通じて確立しなければならないと考え、『アジア共生学会』を設立します」
様々な分野の研究者や専門家が、自分の枠に閉じこもることなく、学際的に意見を交換し合って交流する。それは「開く」ことにほかなりません。学者と記者がチームを組むアジアネットワークも、同じ方法論で運営してきたからこそ活気が保てたように思います(手前味噌でしょうか?)。「共生学会」の今後に注目したいと思います。
共生学会への連絡は
kma4598f@carrot.ocn.ne.jp
です。