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一線から
AANの研究チームが、取材・調査の過程で直面したこと、考えたことなどを、随時リポートします
対外認識の愛憎二重心理とどう向き合うか


園田 茂人
中央大学教授(元AAN客員研究員)

園田 茂人

9月2日から5日まで、3泊4日の日程で中国・天津を訪問してきた。現在進行中の調査プロジェクトをめぐって調査協力者と打ち合わせを行うためであったが、滞在期間中、私が投宿していたホテルのテレビは、連日、アテネ・オリンピックでの中国躍進を想起させるシーンを流し続けていた。土曜のゴールデンタイムにはメダリストが参加する娯楽番組が放映され、メダリストのオフィシャルスポンサーは、みずからの広告に中国人選手のメダル獲得シーンを繰り返し流していた。

今回のアジアカップで見られた、中国人サポーターによる「反日」行動についての議論がかまびすしい。2004年の10月号だけでも、『論座』、『中央公論』、『正論』、『潮』などが特集を組み、中国人サポーターの「常軌を逸した」行動に、分析のメスが入れられている。

もっとも、これらの分析で、いくつか重要な論点がかけているように思う。サッカーの「特殊性」と、中国における対外認識の愛憎二重心理(アンビバレンス)といった視点が、これである。

サッカーの「特殊性」とは何か。
 日本ではあまり報道されていないものの、興奮したサッカーファンによる暴動は、中国でしばしば起きている。それどころか、2002年のFIFAワールドカップの開催を前に、韓国のワールドカップ組織委員会は、中国のフーリガンに対する対応を協議した経緯さえある(吉崎英治,2001,「中国、日韓共催W杯へ参戦」『世界』12月号、178ページ)。その根拠として「最近の韓中戦での韓国ファンに対する態度」を挙げているというから、対戦相手、とりわけ中国よりも強いと目されるチームへの過激な対応が今に始まったことでないのは明らかだ。

ところが、中国で開催された国際競技大会で、これほどまでに「反日」的行為にスポットが当てられたことはない。では、なぜサッカーでのみ、こうした行為が見られるのか。私はそこに、サッカーの「特殊性」を見る。

単純なルールと観戦のしやすさ、FIFAによる厳然とした世界ランクの存在と、しばしば生じる結果の意外性、5万人以上を収容できる巨大なスタジアムと、さまざま応援形態を許容・容認する規範の存在、そして何よりその娯楽性と大衆性は、サッカーが観衆の過剰なまでの熱狂を生み出す大きな原因となっている。そのため、さまざまな不満を抱える人たちが、そのはけ口としてサッカー観戦するようになると、フーリガン現象も生まれやすくなる。

もっとも、サッカーというスポーツの特質だけに原因があるわけではない。分析を浅薄なものとしないためには、もう一つの要因である、対外認識の愛憎二重心理といった点に議論を進めなければならない。

中国で行われた対外認識に関する世論調査にはいくつかあるが、そこで得られている知見は実に興味深い。

たとえば、1995年に北京の零点調査公司が中国の5都市で行った対外意識調査によれば、「豊かな国はどこか?」との問いに対しては、アメリカ、日本、スウェーデン、シンガポール、「世界の強国はどこか?」との問いには、アメリカ、中国、ドイツ、日本の順で回答率が高かったという。また、「気になる国はどこか?」との問いには、アメリカ、日本、中国が挙げられていたというが、これからもアメリカと日本が、多くの点で中国(人)にとって気になる国であることがわかる。

http://www.fon.org.cn/roomofmembers/DONGPING/FUTURE/9.htm

しかし、アメリカと日本に対する中国人のまなざしは、決して単純なものではない。そこに、愛憎半ばする複雑な心理が働いているからである。好きな国と嫌いな国として、この2つの国が同時に選ばれているのは、その何よりの証拠である(『朝日新聞』1997年2月9日)。

日本と比べても、アメリカに対する好感度は遥かに高いように思える。「日系企業とアメリカ系企業のどちらを選ぶか」といった問いに、アメリカ系企業という回答が大半を占め、中国における英語学習人口と日本語学習人口の差は、ますます増えるばかり。ビジネスや学問、大衆文化の世界では、中国におけるアメリカのプレゼンスは、いまや圧倒的である。

しかし、1999年、NATO軍による在ユーゴスラビア中国大使館誤爆事件の際に、中国各地で見られた過激な反米示威行動は、われわれの記憶に新しい。当時、北京に滞在中の高原明生は、「(北京の)文教地区でも、・・・・『アメリカ帝国主義を打倒せよ』『われわれの尊厳を取り戻せ』『凶悪犯を懲らしめろ』などと叫びながら、数百人の若者がデモ行進中だった。大学教師たちを含め、誤爆だという説明を信じる者はほとんどいなかった」というから、その激烈さは推して知るべしである。

http://www.asahi.com/international/aan/report/2000_04.html

また、ちょうどネット上で反日的言説が飛び交っているように、中国人青年による反米・嫌米的な言説は驚くほど多い。そして、親米派と反米派の間で、熾烈な討論・口論が展開されている。

http://www.phoenixtv.com/home/news/review/200308/05/92811.html

強く豊かな国に対する強烈な憧れと、その裏側にある憎しみや妬みの感情。毛沢東時代には、前者の感情を押し殺し、後者の感情を社会主義建設に利用してきた。トウ小平の時代になり、改革開放が始まって、前者の感情は肯定されるようになったものの、後者の感情は時に意図的に、時に無意識のうちに抑圧されてきた。

ところが、ちょっとした拍子に憎しみや妬みの感情が噴出することになる。社会が急速に変化し、人々がみずからの感情をコントロールするのに困難を感じる時、この愛憎二重心理は過激な形で、集合的に表出されることになる。

対日感情も、その例外ではない。それどころか、もともと歴史認識問題といった爆弾を抱えていることを考えると、サッカー観戦といった群集状況にあって今回の事態が生まれたのも、十分理解可能なことである。

改革開放の「総設計師」とされるトウ小平は、大のサッカー好きで有名だったが、もしサッカー観戦の場で、中国人サポーターが「反日」行動をとる姿を見たら、どう感じただろう。

アテネ・オリンピックでの中国の躍進は、一時的には中国における複雑な対日感情を沈静化させることになるだろうが、多分、本質的な解決には繋がらないだろう。

もっとも厄介なのは、「強い中国」のイメージを中国のメディアが流し続けることが、今度は日本の対中感情を過度に刺激し、中国警戒論が強くなる可能性があることかもしれない。警戒感が相手の警戒感を生むという、悪循環が生まれてしまうかもしれないからだ。

しょせんは人間の感情に根ざしていることとはいえ、その人間的な感情に根ざしているところに、問題解決のむずかしさがある。

対外認識の愛憎二重心理にどう向き合ってゆくか。アジアカップという幕間の寸劇は、日中双方が真剣に取り組むべき課題を浮き彫りにした点で、皮肉にも、意義深いものだった。もっとも、サッカーそのものを純粋に楽しみたかった私にとって、アジアカップの決勝が実に苦々しいものになってしまったのも、また、否定できない事実なのだが。

(『中国研究月報』2004年9月号<特集:アジアカップ>に掲載予定)

2004年9月8日
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