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 一線から
AANの研究チームが、取材・調査の過程で直面したこと、考えたことなどを、随時リポートします
明日を見つめるサハリンからの留学生

桜井 泉
朝日新聞外報部員(AAN研究員)

ロシア・サハリン島は、かつて樺太と呼ばれ、南半分が日本の領土でした。日露戦争に勝った日本が、ロシアから割譲を受けたものでした。

第2次世界大戦中は、多くの朝鮮人が朝鮮半島からサハリンの炭鉱に連行されました。戦後、サハリンにいた日本人の大半は帰国しましたが、朝鮮人は引き揚げの対象外とされました。朝鮮半島は、北朝鮮と韓国に分かれて激しく対立し、韓国と当時のソ連との間には、長いこと国交がありませんでした。朝鮮人は、韓国に帰ることができなかったのです。今、この島には、朝鮮系の住民約3万人が暮らしています。

州都、ユジノサハリンスク出身で、韓国・釜山市の私立東西大学に留学している朝鮮系3世、テン・マリナさんが(22)が8月下旬に来日し、留学を支えてくれている人たちに学生生活の様子を報告しました。この大学は、昨年4月から毎年5人ずつ、サハリンから留学生を受け入れています。大学側が学費を免除し、在日韓国人や日本人でつくるNPO法人、ワールド・トンポー・ネットワーク(本部・東京)が生活費の面倒をみています。

志願者は、志望動機を英語で書き、面接で選ばれます。海外で高等教育を受けたいという若者は多く、今年の競争率は6倍になりました。

2年生のマリナさんは、ファッション・デザインを学んでいます。祖父母は、植民地下の朝鮮半島で日本語教育を受けさせられました。祖父は、日記も日本語で書いていました。今でも、おじいさん、おばあさん、タマネギなどの日本語が家で使われているそうです。

マリナさんは、父母とロシア語で話します。「でも、母はテンジャン(朝鮮風のみそ)やコチュジャン(唐辛子みそ)を家でつくります。民族の伝統の味を守っているんですよ」と少し誇らしげに語りました。

マリナさんによると、サハリンの学校では、朝鮮人の歴史をほとんど習いませんでした。なぜ自分たちがサハリンにいるのか、深く考えたことはなかったと言います。

サハリンでも、毎年、8月15日に日本からの解放を祝う光復節の行事があり、朝鮮の老人たちが、民謡アリランを歌います。「楽しいが、何のお祭りなのかは知らなかった。韓国に来て初めて、光復節の意味がわかりました」とマリナさんは言います。

サハリンの留学生にとって、壁になるのは韓国語だと、担当教授の張済国さんは言います。でも、マリナさんは意思疎通に不自由はありません。サハリンの教会で韓国人宣教師から言葉を習い、釜山で韓国人の友人と話すうちにどんどん上達しました。

英語も大好きで、釜山では小学生に英語を教えています。そして今、関心を持っているのが日本語。「漢字は難しいけれど、ひらがなは読めます。日本のデザイナーでは、ヨウジ・ヤマモトがいい」と話します。

留学については「視野が広がった。多くの後輩にもこうした機会が与えられればいい」と言い、「語学を一生懸命勉強して、アメリカやヨーロッパで活躍できるデザイナーになりたい」と夢を語ります。

張教授は、「サハリンの若い世代のリーダーを育てることで、日韓の歴史問題を未来志向的に解決したい」と奨学制度を始めた動機を語ります。心配なのは、留学生たちの卒業後の就職です。「サハリンは、エネルギー開発が進み、日本の商社も進出している。留学を終えた若者を積極的に雇ってくれないでしょうか」。

今年は、日韓国交正常化40周年です。「将来は、サハリンの若者を日本の大学で学ばせたい。日本政府もこうした未来志向的な事業にリーダーシップを発揮してほしい」。日本の大学院で学んだ張さんは、そう願っています。

留学事業の問い合わせは、ワールド・トンポー・ネットワーク(03・5726・1783)。


2005年9月20日

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