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年間リポート:2000リポート
「北東アジアの協調的安全保障」と「アジア経済の再生と日本」をテーマにした初年度の総合的研究
円の国際化でドル依存を脱せ
  望まれる通貨バスケットへの政策転換

資料 1997年7月に始まったアジア通貨危機の原因解明のため、2年余りたった今も様々な議論が続いており、再発防止に向け、いくつかの提案がなされている。宮沢喜一蔵相が1999年春のアジア太平洋経済協力会議(APEC)蔵相会議で表明したアジア通貨の「バスケット・ペッグ制」の提案も、そのひとつだ。

 しかし、たとえ「バスケット・ペッグ制」が東アジア諸国にとって最適な為替相場政策であっても、東アジア諸国の通貨当局が採用する際に直面する障害がある。その障害の1つが、円の国際化が進んでいないことである。

 アジア諸国にとっての最適な為替相場制度を採用できるための環境作りとして、円の国際化を進める必要がある。

 ■危機招いたドル固定

 バスケット・ペッグ制は、自国の通貨を米ドルや円などの複数通貨から構成される「通貨バスケット」に固定する仕組み。これに対し、通貨危機に直面した各国では、自国通貨の為替相場をドルに固定する「ドル・ペッグ制」が事実上、採用されていた。危機の震源地のタイでは、84年以降、公式にはバスケット・ペッグ制を採用すると公表してはいた。だが、実際にはドルに対するタイバーツの為替相場を安定化させることに、大半の注意が払われてきた。

 ドル・ペッグ制の場合、円ドル相場の変動がそのまま円に対する自国通貨の変動を生み出す。とりわけ、日本と貿易取引の関係が深い東アジア諸国では、影響は大きい。円に対する自国通貨の為替相場の変動が、実効為替相場(貿易額で加重平均した複数国通貨に対する自国通貨の価値を表す相場)の変動を通じ、貿易収支の増減を拡大することになる。

 95年以降の円安ドル高の進行で、東アジア諸国の通貨は総じて円に対し強くなったため、国際市場での製品の価格競争力が落ち、輸出成長率を低下させた。このことは、経済成長を輸出に頼っているこれらの国にとっては大きな痛手となり、通貨危機の原因となった。

 筆者は、伊藤隆敏・前一橋大教授(現・大蔵省副財務官)、佐々木百合・高千穂商科大助教授とともに、貿易収支の増減を安定化させるための通貨バスケットにおけるドルと円の最適構成比を、アジア主要国の各通貨について試算してみた。これには貿易額のシェア(占有率)のみならず、為替相場の変動に対する貿易の反応度も考慮に入れた。

 国によって相違があるものの、ドルの最適な構成比率が5−7割であるのに対し、円の最適比率は3−5割という試算結果が得られた。危機前に採ってきた事実上のドル・ペッグ制より、円の比重を大きくした通貨バスケットに固定させる為替政策が、貿易収支を安定させ、ひいては危機を防ぐ面から望ましいということだ。

 ■単独導入にはリスク

 通貨バスケット論議で問題とされる点は、どのような目的をもって通貨当局が為替政策を行うかである。貿易収支の増減、ひいては国内総生産(GDP)の安定化を図るためには、通貨当局は主な貿易相手国の為替相場に注目する必要がある。

 しかし、通貨当局は実際には、内外の企業や金融機関が直面する貿易、直接投資、国際金融取引における外国為替リスクを、どれだけ軽減させられるかについて関心を払っている。その結果、東アジアでは、これらの取引における表示通貨・決済通貨となっているドルに対して自国の通貨を安定化させるよう、為替政策が行われてきた。現在も、中国、香港、マレーシアがこの観点からドル・ペッグ制を採っている。

 中国やマレーシアの通貨当局の他に、かつて事実上のドル・ペッグ制を採用していたタイの通貨当局に話を聞いてみると、基軸通貨であるドルに対して自国通貨をペッグすることによって、自国通貨に対する信認が高まると信じているところがある。

 もうひとつの問題は、東アジアの中で一国だけが異なる為替政策を採ることは、相場の変化によって、価格競争上、不利な状況を生み出すリスクがあることだ。

 このリスクを回避するために、たとえ最適な為替政策を採用することが望まれるとしても、1つの国のみでは最適な為替政策を採用できないという「協調の失敗」という状況に陥ってしまう。これを解決するためにも、東アジア諸国間において為替政策の国際協調が必要となる。

 タイは通貨危機後、管理フロート制に移行したまま、バスケット・ペッグへの移行には慎重な姿勢でいる。相場管理が難しいとの考え方があるほか、他国の状況を見守っている面もあるようだ。このため、東アジア諸国が為替制度を選ぶうえで国際協調が必要となる。

 さらにこれらの国の通貨当局が直面する問題として、国際通貨としての円の役割が小さかったという問題が残る。

 東アジア諸国の通貨当局は、基軸通貨としてドルが世界経済において利用されてきた状況の中で、ドル・ペッグ制を採用してきた。少なくとも東アジア諸国で円が国際通貨として利用されていれば、為替政策における円への関心はもっと高かっただろう。円の国際化が進むことによって、ドル一辺倒の為替政策から、円も含む通貨バスケットをターゲットとする為替政策への移行が円滑に進むはずだ。

 円の国際化は、東アジア諸国が再び通貨危機に陥らないよう、これらの国の通貨当局が最適な為替政策を採用するために必要とされる。

 ■民間の円利用がかぎ

 現在、円の国際化のための環境整備が官主導で進められているが、それは必要条件であって十分条件ではない。国際通貨としての地位を獲得できるか否かは、通貨価値の安定以上に、国際経済取引における決済手段として利便性に依存する。この利便性は、周りの多くの人たちが利用している通貨を利用することが決済手段として便利だという「ネットワーク外部性」が作用する。したがって、円の国際化が進むためには、より多くの民間企業・金融機関が実際に円を利用することが必要である。

 他の国々がどれだけ円を国際通貨として利用するか。それによって円の国際通貨としての機能が高まることになる。とりわけ、日本企業や金融機関自身の円の国際化に対する対応が重要だ。

 (この項、1999年10月発表)

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