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書評
アジア関連書籍の紹介です

『阿片王 満州の夜と霧』 佐野眞一著 新潮社・1890円

軍や政治家の資金源を「私心なく」差配

評者・松原隆一郎(東京大学教授=社会経済学)

「著者の最高傑作」と帯にある。だが奇怪な読後感の残る本だ。。

佐野氏は、戦後日本の高度経済成長がもたらした光と影を描いてきた。虱潰(しらみつぶ)し、としか言いようのない精力的な調査は一貫している。ダイエー創始者の中内功伝『カリスマ』では、同級生の記憶にも残らぬほど物静かだった少年が、長じて一国経済を破壊しかねぬほどの累積債務にひた走った謎を追い、フィリピン戦線での異常な個人体験をつきとめた。。

「高度成長がなぜ可能だったか」と問い、その答えを「満州」に求めるという本書のスタンスは鋭い。東京で行き詰まった戦前の都市計画を、あたう限り理想に近づけたのが首都「新京」(現・長春)だったし、「山を削り海を埋める」神戸市の都市経営は、市長が旧満州での体験を反復したものだ。ところが佐野氏はむしろ戦時上海の暗部に注目し、「日中戦は20世紀の阿片(アヘン)戦争だった」というテーゼを、日中両国にまたがる阿片の一大シンジケートを差配した「阿片王」里見甫(はじめ)を通して論証しようと試みるのである。。

里見没後に遺児への寄付を求めて回された「芳名帳」に記された人物のすべてを訪ねる著者の姿が、本書の基調にある。けれども「下半身が闇の中に溶けた」と形容される人物ばかりが現れて、テーゼの証明には至らない。A級戦犯の里見がなぜ釈放されたのか、アメリカで占領軍関連の資料に当たるべきではなかったか。「男装の麗人」や「怪しい秘書」への固執は、物語を迷走させている。。

それにしても惹(ひ)かれるのは、会社のリストラ案で自分を筆頭に置くような、豪胆にして私心なき里見の人柄だ。中毒者の溢(あふ)れる中国では阿片を即時禁止ではなく漸禁させるべきだというのが後藤新平案だったから、民間より高純度で安価な阿片を必要悪として提供するのは一種の公共政策であった。儲(もう)けはすべて人にくれてやり一切私腹を肥やさなかった里見には、公務に殉じたという意識しかなかったのかもしれない。だが資金は岸信介や児玉誉士夫らに流れ、戦後政界を拘束した。無私ゆえに悪徳が蔓延(はびこ)るという逆説が、この本の読みどころだ。

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