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スーダン・ダルフール―ラクダ商人

2008年3月3日

  • 編集委員・竹内幸史

写真若いラクダを乗り回して調教する=橋本氏撮影写真西部劇のロデオさながらの調子で駆け回して調教=橋本氏撮影写真ラクダの顔には出身地や所有者を示す烙印がある=橋本氏撮影写真取引前に健康チェックをする商人ら=橋本氏撮影写真値段は1頭500ドルから1000ドル程度という=橋本氏撮影写真ラクダ市に集まった人たち=竹内氏撮影

 北ダルフール州の州都、エルファシェール南郊のオムシゲーラ村に家畜市場があると聞き、出かけてみた。サッカーの競技場がいくつも入りそうな広大な砂地に区画を設け、ウシ、羊、ヤギなどが数百頭集められ、売り買いされていた。来ているのは、アラブ系の遊牧民や商人が多い。

 とりわけ市場で目を引くのは、ラクダである。100頭余りが居並ぶ姿は壮観だ。ひとこぶラクダばかりだが、体は大型、中型、体毛が長いものなど種類はいくつもあるという。よく見ると、逃げ出さないように前脚か後ろ脚の1本をロープで縛られたまま突っ立っている。キョトンとしたユーモラスな表情を浮かべながらも、平然としている様子に、かえって哀れみを誘われる。くたびれて座り込んでいるのや、お母さんラクダの乳をしゃぶる幼な子もいる。

 遊牧民のひとりは一匹の背にまたがると、「見ていろ」とばかり猛然と走り出した。座り込むラクダたちの間を、西部劇のロデオさながらの調子で駆け回る。ラクダはインド、アフガニスタンなどでも見てきたが、走る姿は初めて見た。なかなかのスピードだ。若いラクダを飼いならしているのだという。

 商人らによると、値段は1頭500ドルから1000ドル程度。1日20〜30頭、多い時には200頭くらいが取引される。ラクダは砂漠の中で1〜2カ月も水を飲まずに働くが、商人のひとりは「スーダンのラクダは丈夫で知られている。リビアやエジプトにまで輸出されているんだ」と自慢していた。「輸出」とは言っても、遊牧民が陸路で数百キロ〜1000キロ以上も連れていくのだから、大変な距離の交易である。

 ラクダのほおや首筋には烙印が押され、どこの村か、どの部族が育てたラクダか分かるようになっている。この市場にも西隣のチャドや中央アフリカ、さらにはるか西のモーリタニアなどからもラクダが売られてくることがあると聞いた。やはりとんでもない距離を旅してくるわけだ。

 ところが、商人の話を聞くと、この市場にもダルフール地方の環境変化が現れていることに気づいた。

 遊牧民は半砂漠地帯で牧草地と水を求めて雨期に北上し、乾期に南下する生活を続けている。前回にも紹介したエルファシェール大学助教授のアブドゥルジャバル・アブデラ氏によると、北緯14度〜15度の間を南北に移動してきたという。しかし、サハラ砂漠の拡大に伴い、南下して滞留する期間が長くなっているというのだ。

 半砂漠地帯からさらに南下して湿度が高い地域に行くと、ツェツェバエなどが媒介する病気もある。人間も家畜も恐ろしい眠り病にかかる吸血性のハエだ。スーダン中部の北緯15度周辺からジンバブエなどがある南緯20度周辺は「ツェツェベルト地帯」とも言われる。だが、「ラクダは水がなくても生きていけるが、牧草がなければ生きていけないので仕方ない」と、遊牧民のひとりは南下の理由を語る。

 家畜市場で会った37歳のアラブ系商人からは興味深い話を聞いた。彼はエルファシェールの北東にあるメリット地区で遊牧民の家庭に生まれ、一家で移動しながら羊を売ったり、砂漠地帯を町から町へ荷を運んだりしていた。だが、まだ少年だった1985年に家族ぐるみで遊牧生活を断念し、ラクダの取引業に転じた。

 そのきっかけは、農民との衝突だったようだ。牧草地を求めて南下し、農村に入っていった時に、農民との間で何らかのトラブルを起こしたらしい。その結果、「袋だたきにされ、一家で持っていたラクダ50頭をまるまる失った」という。

 彼は、私がアラブ系でなく黒人の通訳を連れていたせいか、それ以上は詳しく語らなかった。だが、話のニュアンスからは小競り合いの末、農民が武器を持ち出し、力づくでトラブルの謝罪を求めたと推察された。

 遊牧民の生活に詳しいアブデラ氏によると、砂漠化や干ばつによる環境変化に伴い、遊牧民の移動範囲が狭まり、農民たちと生活圏が重なり始めるようになった。水がある場所を奪い合い、農地荒らしや家畜泥棒などの摩擦が増えたという。

 アブデラ氏は「モータリゼーションの波」も指摘した。「自分も子供のころ、遊牧民にカネを払ってラクダに乗せてもらい、半砂漠地帯を横切り物資の買い出しに行った。しかし、トラックによる物流が普及し、遊牧民の仕事は減ってきた」と語る。

 さまざまな環境変化によって遊牧民の暮らしも変貌しつつあるようだ。

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