現在位置:
  1. asahi.com
  2. ニュース
  3. 国際
  4. 魅惑大陸アフリカ
  5. 深層エコウオーズ
  6. 記事

モーリタニア・シンゲッティ……砂と闘う町

2008年4月30日

  • 大野良祐前ジュネーブ支局長

地図写真シンゲッティの町外れで、地平線まで続く夕日で赤く染まった砂丘を見つめる観光客写真世界文化遺産に登録されているシンゲッティの町並み。 左の塔はモスク。写真砂に埋まったナツメヤシ。かつては空が暗くなるほどうっそうとしたオアシスだった。写真人の家にも迫りくる砂丘の砂。厳しい生活に町を捨てた人も多い。写真厳しい地方の生活を捨て、人々は首都へ出稼ぎに出る。ヌアクショットにはそんな人たちが集まるスラムが広がる。写真敬虔なイスラム教徒であるモーリタニアの人々。砂の上で何を祈るのだろうか。

 町の東の外れ。東西に細長く伸びたオレンジ色の砂丘が幾筋も盛り上がっている。北東の風が砂丘の先端を絶えず崩し、さらさらと砂が滑り落ちてゆく。西アフリカ、モーリタニア内陸部、世界遺産にも登録されている古都シンゲッティ。

 旧宗主国フランスをはじめ、欧州各国からの観光客が砂漠に魅せられてやってくる。小さなラクダの隊列を組んで砂漠を旅するツアーや、四輪駆動車やサンドバギーで砂丘を走り回るのを楽しむ一団もいる。無邪気な観光客たちと幻想的な夕暮れの砂漠。

 だが、この地で生きる人びとには、この風景はまるで違って見えている。砂丘は少しずつ西へと広がっている。まるで生き物のように成長し、動いているのだ。シンゲッティの町をのみ込みながら。町の人びとは、砂におびえて生きていた。

 風の強い日、アブド・ハネフィさん(45)は、代々受け継いできたナツメヤシ林の裏手20メートルほどに迫った砂丘から落ちてくる砂をかき出す作業に追われる。妻と子供4人、一家総出だ。「昼間にいくらかき出しても、夜の間に砂丘は一回り大きくなる。だが、あきらめればそこで終わりだ」

 はじめ、砂ははるか遠くにあった。それがこんもりと小さな砂丘になり、少しずつ、ハネフィさんのナツメヤシ林に近づき始めた。強い風が吹くと、砂丘は驚くほど速く動くことを知った。4年ほどで、目の前までに迫った。高さ数メートル。

 70年代前半の大干ばつが発端だった。雨が降らなくなり、毎日砂嵐が吹いた。モーリタニア政府の記録では、60年代には100〜150ミリ程度あった一帯の年間降雨量はいま、0〜50ミリ。すでに何万本ものナツメヤシが砂の下に消えた。

 「ある日、ヤギが屋根の上を歩いていた」

 多くの家屋が砂に消えた旧市街のダハンさん(50)は砂の動きの速さを振り返る。気がつくと家の裏手に砂が積もり、屋根に達していた。庭飼いのヤギがとことこと砂の斜面を登って屋根に上がったのだった。

 ダハンさんの記憶では、子供のころ、町から9キロほど離れた一族のナツメヤシ林に行くと、木が鬱そうと茂っていた。林の中は昼間も薄暗かった。7、8月の実の収穫期は「ゲトナ」と呼ばれ、一族が集まって摘んだばかりの実を食べて楽しんだ。いま、その場所で砂の上に顔を出しているナツメヤシは2本しかない。「一年中、砂との闘いだ。だが、砂の勢いは止まらない」。ダハンさんの表情に影が差した。

 草地が消えたために多くの遊牧民が「廃業」し、首都ヌアクショットなどに流れ込んでスラムを作っている。

 シンゲッティ郊外に出てみれば、絶えず北東からの風が吹き、風に押し出されるように砂丘が広がっている様がはっきりと見てとれる。いったい、この砂はどこからやって来るのか。

 首都ヌアクショット。同国環境省で82年から砂漠化対策に取り組んできたメイモン・サレック専門官に会った。

 サレック氏によれば、サハラ砂漠の西端にあたるモーリタニアの北東部は大昔から砂漠であった。「砂はモーリタニアのものだ。周辺国から流入してきたものではない」と同氏は言う。ただ、かつては、砂漠地帯の周辺部には自然に育った木々や草が生え、「植生の堤防」となって砂を閉じ込めていた。

 しかし、干ばつに加えて、人口増で煮炊き用の薪にするための人による伐採が進んだ。「自然の植生が消えたため、閉じていた扉が開き、砂漠が動き出した」と同氏は話す。砂を押しとどめていた草木の堤防が「決壊」したのだ。砂は、洪水のように西方へあふれ出した。本当の洪水と違うのは、砂は風向きが変わらない限り、水が蒸発するようになくなることは決してない、という点だ。首都ヌアクショット郊外の砂漠で環境省が84年に行った砂丘観測では、風の強い日は1日に4メートルも前進する。

 「大干ばつの原因は、我が国だけでは分析のしようもない。だから、砂漠化の理由については、『モーリタニア政府としてはわからない』と言うしかない。人為的な樹木伐採ももちろん影響していると思うが、地球規模の気候変動も大きく作用しているのではないか」とサレック氏。今必要なのは、緑化を進めるための資金と、自然と共存し、資源を枯渇させずに生きる知恵と術を身につけるための教育だという。

PR情報
検索フォーム
キーワード:


朝日新聞購読のご案内
  • 中国特集
  • 北京五輪への道