現在位置:
  1. asahi.com
  2. ニュース
  3. 国際
  4. 魅惑大陸アフリカ
  5. モザイクアフリカ
  6. 記事

ジンバブエ、人々の集う教会の風景

2008年2月8日

  • アフリカ研究者・横山仁美

地図写真ハラレのハイデンシティ・エリア、グレン・ビューでの祈りのひととき写真合唱コンテストの日。子どもたちが走り回っている写真揃いの衣装で踊る女の子たち。地区ごとのグループによって合唱とダンスが披露される写真結婚式を終え、友人たちと記念撮影の時間写真結婚式の一幕。長時間にわたり、司会が二人を祝福するスピーチを行う

 「ムリクエンダ・クチェチ・ナシマネル・エレ?」─今夜も教会へ行くの?

 木曜日になると決まって私は、ジンバブエの首都ハラレのオフィスに掃除に来ている女性に拙いショナ語でこう問いかけた。すると彼女は、笑顔で「そうよ」と答える。いつも、木曜日は夕方から深夜にかけ、屋外からかなりの長時間にわたって祈祷の声や歌などが聴こえてくる。どんなに寒い夜でも、変わらずジンバブエでよく見かけられる光景だ。そして彼女は、そのような教会メンバーの一員なのである。

 国民の75%ほどがローマカソリックをはじめとするキリスト教徒であるこの国では、教会は多くの人々の生活に欠かせないものとなっている。歴史的にも、白人政権ローデシアから独立するための解放闘争において、当時のローデシア・キリスト教協議会(現在のジンバブエ教会評議会)は抑圧された人々の解放と人権保護のための闘争を支援した。また、1979年停戦合意を行いジンバブエの独立を実現したイギリス政府とのランカスター・ハウス会議においても、教会指導者たちは重要な役割を担った。

 しかし、2000年の土地改革を発端とした経済の崩壊は、現在も悪化の一途を辿っている。世界一といわれるハイパーインフレは人々の生活を苦しめ、物価は毎日のように上がっていく。政治も不安定化し、ハイデンシティ・エリア(植民地時代の黒人居住区でほとんどが低所得者)と呼ばれる地域の教会に警察が踏み込むこともある。当局は、宗教に名を借りた政治活動に目を光らせているのだ。実際、オフィスの清掃人の彼女も、教会活動中に警察の暴力を受けたことがあった。また、2007年3月、現在の政治経済的混乱を打破しようと教会組織を中心に結成された「セーブ・ジンバブエ・キャンペーン」の集会に警察が踏み込み、一人が射殺され、多くの人が激しい暴力を受けた。そのような状況であるにもかかわらず、現在のジンバブエが抱える極端な政治的両極化や不安定さの解決を、教会組織の仲介に期待する声はなくならない。

 ハラレ市内のハイデンシティ・エリアで行われる礼拝には、何度か出席したことがある。近所中の人たちが集まり、ショナ語の歌や説教が、まるで示し合わせた脚本でもあるかのように滑らかにテンポ良く進んでいくのだ。子どもたちが出てきて合唱し、女性の独唱が続き、それから司祭の歌うような語りへ。合唱のコンテストが催される日には、女性たちの作る料理や飲みものが並ぶ。子どもたちは、見慣れない外国人である私の周りに寄ってきては、私の腕などを触ってはしゃぐ。白人やアジア人などがこうしてハイデンシティ・エリアに来ることはやはり少ないから、私の肌の色が珍しいのだ。

 昨年、天気の良い冬の日に、ハイデンシティ・エリアの教会で執り行われた結婚式に招待された。地域をあげての盛大なお祝いごとに、多くの人たちが教会へやってきて、歌や生バンドの演奏など、たくさんの音楽とともに式が進行する。花嫁は日の光を浴びて眩しいウエディングドレスに身を包み、若い友人たちはこの日のためにあつらえた揃いの衣装をまとって精一杯の祝福をする。これもまた、町の教会で見られる温かなひとつの風景なのだ。

 そこには、人々の変わらぬ笑顔があり、熱心な祈りの歌がある。この国の政治経済がどのような局面を迎えようとも、人々の生活の真ん中に、教会はある。

プロフィール

横山仁美(よこやま・ひとみ)
 アフリカ研究者。(特活)TICAD市民社会フォーラム会員。大学在学時、南アフリカ出身の作家ベッシー・ヘッドの研究を始め、南アフリカ・ボツワナで調査を行う。
 2001年より、飢餓や紛争、野生動物というステレオタイプにとらわれない「普通のアフリカ」を日本の人に知ってもらうきっかけを作るため、日本語メールマガジン『あふりかくじらの自由時間』を発行するとともに、ブログを開設している。
 エディンバラ大学アフリカ研究センター修士課程修了後、コンベンション会社、開発コンサルタント勤務等を経て、2005年から外務省専門調査員として在ジンバブエ大使館に勤務し2007年帰国。
ブログ『あふりかくじらの自由時間』 http://blog.livedoor.jp/africanwhale/

PR情報
検索フォーム
キーワード:


朝日新聞購読のご案内

中国特集

北京五輪への道