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まばゆい民族の誇り 映画「ウォー・ダンス」

2008年11月25日

  • 板垣真理子

写真「ウォー・ダンス/響け僕らの鼓動」(c) 2006 Shine Global, Inc. All rights reserved.

 東アフリカのウガンダ北部。ここは反政府軍により20年以上にもわたる紛争の続く土地である。軍は多くの住民を巻き込み、虐殺や襲撃も繰り返されている。そして、その被害者の多くが驚くべきことに子どもたちなのである。誘拐された少年は兵士にされ、人を殺すことさえ強要される。少女やその母親はレイプを受ける。なんと3万人の子供たちが誘拐され、20万人の子供たちが両親を殺された、という数字もある。何故?

 映画「ウォー・ダンス 響け僕らの鼓動」では、その社会的背景、政治的理由は何も語られず、ひたすら、心に深い傷を負った子供たちの証言、そしてキャンプに暮らす彼らが首都カンパラに出て、国を挙げての音楽と踊りの大会で目覚ましい活躍をして過去を乗り越えていく、というストーリーがドキュメントとして綴られていく。

 まず、なんと言っても衝撃的なのは、彼らの証言。瞳に暗い影を宿しつつ、信じがたいような残酷な体験がぽつり、ぽつりと語られていく。「僕たちは銃声と死の中で育ってきた」子供たちなのだ。

 そんな子供たちをなんとか立ち直らせようとする、キャンプの小学校の先生たち。「音楽や踊りの力を使ってあの子たちを救わなければ、社会復帰することはできないわ」。前半の暗く辛い体験を語った子供たちだけに、マンゴー・ツリーの下で歌い、踊り、本来のアフリカンの強く美しい表情を少しずつ取り戻していく様は、感動的だ。ああ、音楽の力はここにあり。

 ついに彼らが首都カンパラの音楽祭に出場する日がやってくる。なにしろここ北部からの出場は初のこと、というそれだけでも大変な価値をもつことなのだ。「皆、北部の私たちは、ただ紛争に明け暮れるだけで何もできないと思っている」「私たちにだって人を感動させるはできるのよ」子供たちのそんな決意にみちた言葉が語られる。彼ら、アチョリの人々の伝統的踊りである「ブウォラ」、これは「美の踊り」そう先生はこどもたちを励ます。

 確かに、羽飾りを頭に戴いた彼らの表情のなんと凛々しく美しいことか。この伝統的踊りは、王の前で披露するものであると思われるし、衣装は狩人か戦士のものだ。この踊りと音楽で彼らは大会の賞を射止める。(他の地域からやってきた小学生たちもむちゃくちゃに上手い。上映時間が長くなってもいいからもっと見たい、と思った人は少なからずいるはずだ)

 誇らしげに、そう彼らのもっとも大きな望みは自分のたちの誇りを取り戻すことなのだから、トラックでキャンプに凱旋する子供たち。「私たちはパトンゴ小学校のためではなく、アチョリ族のためにトロフィーをもらったのよ」。こみ上げるものなしには見れないエンディング。バックに流れる数多くのアフリカ音楽……彼らはそうやって生きる力を取り戻していく。そうだった、いつもアフリカで感動させられるものは、生きる力の強さ。普通だったらとても生きていけないのではないかと思うほどの過酷さの中でも再生していく強靭さ。いつもそれに驚かされ、励まされる私たちなのだった。

 しかし、一方では「部族の誇り」という一種、陶酔的な言葉は、アフリカの多くの紛争の要ともなる危険と表裏一体であることも、思い出しておきたい。そして、その紛争はまた、ほとんどの場合、最初から存在していたものではなく「つくりあげられたもの」であることも。よく知られているところでは、ルワンダのツチとフツ(と呼ばれる人たち)。ここウガンダのアチョリの人たちは、歴史の中枢から追いやられた歴史も持つ。そういったことを考えれば、子供たちが自分たちの誇りをかけた理由もさらに大きく呑み込めることにはなるのだが。

 また、映画のつくりそのものを見れば(監督は、ナショナル・ジオグラフィクなどでも活躍する二人のアメリカ人)、そこまで子供たちが辛い過去を語る覚悟はどこから出てきたのか、父親の墓を4年ぶりに訪れ、激しく慟哭する少女の姿はあまりにも痛々しく、あのように撮る必要はあるのだろうか、などいくつかの疑問も浮かびあがってくる。

 しかし、回を重ねて見るたびにそういう疑問よりも、銀幕を通して、アフリカをより深く、その真実の姿を目に留めることに専念したいと思えてくる。

 夫を殺され自らも連れ去られた過去を持つ、少女の母親がこんな言葉を語る。「あれは誰のせいでもないの」。アフリカとこの世の複雑さを、直感的に知っている人の深い諦念。アフリカの人が時折垣間見せる不思議なほどの哲学的な思考にも驚かされる。深く見ようとすればするほどに、さまざまな発見の続く映画である。

 現在、残念ながら3年間続いてきた和平交渉は決裂。北部反政府勢力はその活動を近隣の国々にも広げているという。

 このような事実をまず知ること。そして、なにかしたい、と思った人には次の一歩があること、などにもこの映画のもつ意味があるだろう。

 最後に。どうか子供たちが、そして大人たちも、いい夢を見ながら眠れる日がきますように。

          ◇

 現在、恵比寿の東京都写真美術館で上映中。12月12日からは、渋谷のアップリンクで上映予定。公式サイト(http://www.wardance-movie.com/)内に、関係団体名もあります。「なにかしたい」と思った方はクリックを。

■「ウォー・ダンス/響け僕らの鼓動」
サンダンス映画祭2007 ドキュメンタリー部門監督賞受賞。第80回アカデミー賞長編ドキュメンタリー部門ノミネート
原題:WAR DANCE
監督:ショーン・ファイン&アンドレア・ニックス・ファイン
キャスト:ドミニク、ナンシー、ローズ他
配給:IMAGICA

プロフィール

写真

板垣 真理子(いたがき・まりこ)
写真家、作家。1982年よりジャズのミュージシャンを撮ることで写真の世界に入る。アフリカへは84年から通い続ける。この他、アフリカと大西洋をこえて繋がるブラジル、キューバ、またバリなどを駆け巡り取材と撮影で熱いメッセージを伝えている。著書。写真集に「歓喜・AYO」「Carnival in Black」など多数。写真展多数。08年はBSジャパンの「写真家たちの日本紀行」に出演するなど幅広く活躍。「武器なき祈り」で小田島雄志賞。近著に「アフリカン・ビューティ」。HPはhttp://www4.zero.ad.jp/afrimari/

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