2010年10月15日
史上最悪と言われる公務員ストが8月18日、南アフリカ全国で始まった。参加者130万人。人口の3%弱に当たる。
小中高の教師30万人以上が授業をボイコット。組合に入っていなかったり、入っていても子供のために授業を続ける同僚をののしり、授業を妨害したりする。南アフリカの学校年度は、1月から12月まで。そろそろ年度末試験が近づいている。特にマトリック(高校卒業試験)を目前にした生徒には、迷惑もいいところである。元々、教師の質の悪さが問題となっているところに、アパルトヘイト撤廃後取り入れられた教育システムにより、読み書きの出来ない高校生が続出している現状だ。今年は既に、サッカーワールドカップ(W杯)期間中、1カ月休校している。
更に、困るのは医療従事者のスト。さすがに医師で参加する者は殆どいないものの、清掃人や調理師から看護師まで、医療現場で働くあらゆる職種の人々が職場を放棄。ソエトのバラグワナ病院で働くノエル・ハウザー医師は、「医者は出てきているけど、看護師をはじめとするサポートスタッフがいないと、どうしようもないんだ」と顔を曇らせる。未熟児に食事が与えられず、重病患者を世話する人もいない。
スト参加者は職場放棄にとどまらない。細々と行われている治療の邪魔をする。手術室に乱入し手術を妨害したり、廊下にゴミをまき散らかしたり、病院の前に陣取って救急車を中に入れなかったり、とても医療に関わる人間とは思えない。患者が死んでいっても知らん顔、とでもいうようだ。
スト2週間目に入り、全国の病院にボランティアが集まり始めた。清掃や食事の世話やベッドの移動など、特別な資格を必要としない雑務を行うためである。8月23日からは、7州の37病院に軍隊が出動。医師やボランティアや患者の警護にあたり始めた。
アンシア・ヒーンさんは、バラグワナ病院の検査技師。20代前半のか細い女性だが、ラボにストライカーが乱入し、乱暴に肩をつかまれ、「お前、何故働いてるんだ。出て行け!」と脅された。軍隊のヘリコプターで病院へ出入りした。「怖かった」と思い出して身震いする。
南アフリカで労働者のストは日常茶飯事。今年に入ってからも、5月に鉄道港湾を管理するトランスネットの職員が3週間にわたってスト。経済に与えた損害は73億ドルと言われる。組合は11%の賃上げを勝ち取った。
W杯開催直前6月には、官営電力会社エスコムの職員が9%の賃上げと月1500ランドの住宅手当を求めてスト。W杯妨害をちらつかせる脅迫まがいの行為だった。官営電話会社テルコムは、一部の職員がW杯期間中ストを行った。8月には自動車業界がスト。2010年に10%、翌年と翌々年に9%ずつの賃上げで労使が合意に達した。
今回の公務員ストで組合が求めているのは、8.6%の賃上げ(インフレ率の2倍以上)と月1000ランドの住宅手当。国の提示は賃上げ7%と住宅手当700ランド。経済に与える損害は、1日10億ランド(120億円)と概算されている。
自分は一生懸命働いても賃金が低く生活が苦しいのに、政治家や政府高官や企業の幹部は豪勢な生活を送り、ゼロを数えるのが難しいほどの高い給料を貰っている。頭にくるのもわかる。しかし、看護師や教師といった、人命や国の将来にかかわる重要な職業についている人たちが、僅かな昇給額にしがみついて、仕事の本質をおろそかにするのにはどんなものか。それも、失業率が25%、仕事を探すのをあきらめた人を含めると34%、仕事がある人はラッキー、という現状でのことである。
労働組合が「全国の警官14万5000人と刑務所の看守をストに参加させる」と強気の構えを崩さないまま、ストは3週目に突入。とうとう政府が折れて、7.5%の賃上げと月800ランドの住宅手当を提示。ここでお互いに折れるのが妥当・・・という論理・心情は、南アフリカの労働組合には通じないらしい。なんと、オファーを蹴ってしまった。
労働者が職場に戻ったのは、スト開始から4週目に入った9月7日のこと。労働組合側は、「単なる一時停止であり、政府の提示条件に合意したわけではない」。ストの本質は賃上げではない、という説も根強い。ジェイコブ・ズマを担いで大統領にしたのに、その後思い通りに動いてくれない政府に対 し、労働組合に国をマヒさせる力があることを見せつけるため、というのである。
「一番損をしたのはストをした労働者」というエコノミストもいる。公務員のストは無給なので、今回のストにより年収の5%を失うことになるからだ。
いずれにせよ、一般国民、特に私立病院で治療を受けたり、私立学校に子供を通わせたりすることの出来ない貧しい人々にとっては大迷惑である。

ビジュアルアーティスト、フリーランスライター。1987年よりアメリカ合衆国、92年より南アフリカ共和国在住。ボルネオのジャングルから南大西洋の孤島、果ては南極まで世界各地を旅している、好奇心のかたまり。HP「ペンと絵筆inアフリカ」(http://pen.osada.co.za/)、「Masako Osada Visual Arits」(http://www.osada.co.za/)。