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フォーリン・アフェアーズ・リポート

北極圏開発ブームに備えよ

2013年7月10日発売号

スコット・G・ボルガーソン/北極圏サークル共同設立者

■地球温暖化と新北極圏の誕生

 北極圏の氷がこうも早い段階で溶け出すとは想定されていなかった。気候科学者たちは、地球温暖化によって北極海の氷で覆われた面積が縮小していることにはかねて気づいていたが、これほど急速に氷が溶け出すと予測した者はほとんどいなかった。2007年に気候変動に関する政府間パネルは、2070年以降、夏場の北極圏から氷は完全になくなるだろうという予測を示している。だが、最近の衛星データをみると、その時期は2035年になるかもしれないし、2012年の詳細なシミュレーションでは、夏場の北極圏から氷がなくなるのは2020年になるという結果が出ている。

 1979年に観測が開始されて以降、2012年の夏までに氷で覆われている北極海の面積がもっとも小さくなっていることは疑いようのない事実だ。2011年と比べて2012年には、(ほぼベネズエラの国土に相当する)35万平方マイル分の氷が溶け出している。結局、この30年間で北極海の氷の半分が溶け、氷の容積の4分の3が消失したことになる。

 温暖化の影響を受けているのは北極海だけではない。2012年に過去170年間でもっとも暑い夏を経験したグリーンランドでは、この30年間の平均と比べて、表面が溶け出した大陸氷河の面積が4倍に増えている。同年、アラスカ北部における永久凍土の観測ポイント10カ所のうちの8カ所で最高気温が観測され、残りの2カ所でもそれまでの最高気温と同じ気温が観測されている。カナダ北部のアイスホッケー場でも、リンクの氷が溶け出さないように冷却措置を導入し始めている。

 地球温暖化が、すでにこの地域のエコシステムを大きく動揺させている。氷塊を失った数万頭のセイウチがアラスカ北部へと移動し、北極圏の動植物も北部へと適地を求めて移動している。ツンドラ(永久凍土地帯)は5000万年前の沼地へと戻りつつあるし、嵐になると、氷がなくなった海が沿岸地域を洗うようになり、この地域で暮らす先住民の家が海に飲み込まれている。

 気候変動を前に何をすべきか。人によって考えは違うかもしれないが、温暖化が引き起こす問題はすでに現実となっている。だが、悪いことばかりではない。辺境の荒野に囲まれ、氷に閉ざされて航行できなかった北極海もいまや劇的な変化をみせ、地中海同様に、産業と貿易の中枢として機能する可能性が生まれている。氷が溶け、新たなフロンティアが姿を現すにつれて、世界の石油と天然ガス未確認資源の4分の1と膨大な鉱物資源を含む、北極圏の豊かな資源へのアクセスもいまや開かれつつある。氷が溶ける夏場に誕生する北極海の海洋ルートを使えば太平洋と大西洋間の航海距離は数千マイル短縮される。これによって北極圏が、航空路だけでなく、グローバルな海洋ルートの拠点になるポテンシャルも生まれている。

 北極海周辺諸国がよい環境にあることも、北極圏の未来を明るくしている。その多くは健全な財政を維持しているし、ロシアを別にすれば、ビジネスに適した法環境と平和的な関係を育む民主的価値をもっている。北極圏のさまざまなポテンシャルが高まるにつれて、これらの諸国は対立するのではなく、協調するようになり、境界線をめぐる古くからの論争を平和的に解決し、国際法に則した行動をとるようになった。すぐれた統治と恵まれた立地のおかげで、アンカレッジやレイキャビクのような都市はいずれ主要な海洋輸送の拠点、金融センターとして、高緯度におけるシンガポールとドバイのような役割を果たすようになるかもしれない。

 もちろん、温暖化によってさまざまな可能性が生まれているとはいえ、北極圏の非常にセンシティブな環境に配慮しなければならない。だが責任ある開発を行えば、北極圏の先住民、北極海周辺諸国の経済は大きな恩恵を手にできる。すべての関係諸国が協調を維持し、「持続可能な開発に関する共有ビジョン」をまとめるべき理由はここにある。アメリカも、中国同様に、北極圏を経済・外交政策上の優先課題に据えるべきだろう。好むと好まざるとに関わらず、北極圏はビジネスのためにすでに開放されており、各国の政府も投資家もこの壮大なプロジェクトに最初から参加する十分な根拠を見出している。

    ◇

Scott G. Borgerson 米沿岸警備隊少佐、士官学校のリーダーシップ研究所ディレクター、米外交問題評議会(CFR)の国際関係フェローを経て、現在は、グローバル海洋研究インスティチュート(IGMS)のディレクター。政治家、ビジネスリーダー、先住民代表、NGO、環境保護派、科学者、専門家、学生、メディアなどに議論と交流の機会を提供する北極圏サークル(Arctic Circle)の共同設立者。フォーリン・アフェアーズ誌に「北極の海氷後退と資源争奪競争 ―― 地球温暖化の経済・安全保障的意味合い」(フォーリン・アフェアーズ・リポート2008年3月号掲載、2013年6月号再掲)を発表している。

〈続きはフォーリン・アフェアーズ・リポート7月号〉

(C) Copyright 2013 by the Council on Foreign Relations, Inc., and Foreign Affairs, Japan

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