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家を追われた数百万の人々に救いの手を――世界の難民と国内避難民を支援するための新枠組みを

08年10月号

  • アントニオ・グテーレス/国連難民高等弁務官

家を追われた数百万の人々に救いの手を
――世界の難民と国内避難民を支援するための新枠組みを

アントニオ・グテーレス/国連難民高等弁務官

 2007年12月、私はコンゴ民主共和国の北キブ州を訪れたが、紛争や社会の軍事化が進んだ結果、社会秩序は崩れ、約40万人もの人々が住み慣れた場所を後にせざるを得ない状態にあった。2003年にコンゴ内戦が終わって以降、最大規模の難民、国内避難民が発生していた。内戦ですでに40万人の難民が発生していたことを考えると、この国の一地域だけでおよそ80万人もの難民が出たことになる。私は何万人もの難民たちが暮らすごみごみしたキャンプを数カ所訪れ、生活を自分で管理できなくなったことを嘆く難民たちからあらゆる話を聞いた。

 「武装集団が農村地帯をうろつき回っては村人を殺したり、手足を切り落としたりし、女性をレイプし、略奪を働きながら何のとがめも受けず、自由に動き回っている」と難民たちは口をそろえた。そうした連中に片目をえぐり出されたうえにレイプされた女性の話も聞いた。たとえ難民キャンプにたどり着いても、安心はできない。難民キャンプにまで武装した男たちがやってきて、横暴な行動を繰り返すことがあるからだ。ゴマの郊外にあるシェルターである年配の男性は次のように訴えてきた。「いったいどこにいけば、安全な暮らしをおくれるのか」。実際、難民キャンプには十分な食糧も、水も、寝泊まりする場所もなく、ましてや学校も仕事も、産科クリニックもない。

 こうした人々が置かれている窮状こそ、人道援助コミュニティー、とりわけUNHCRが直面する大きな課題にほかならない。「イラク、スーダンのダルフール地方、スリランカ、コロンビアなどで国内避難民となった何百万という人々の権利をどうしたら守れるのか」。2008年2月にイラクを訪れた際、私は北部のアルビル近郊にあるほこりっぽい国内避難民のキャンプで、何人かのイラク人と会った。このキャンプで暮らす約150世帯の家族のほとんどは、2005年にモスル地区から避難してきた人々だ。モスルから比較的近いにもかかわらず、キャンプの人々は年金の支払いも食糧の配給も受けていない。近い将来、家に帰れるという望みを持つ者もほとんどいなかった。イラクの治安が一向に改善しないために、彼らを始め、国内全域にいるおよそ280万人の国内避難民に対する国際援助機関の活動が思うように進められずにいることは、無念としか言いようがない。

 一方、スーダンのダルフール地方で国内避難民となっている200万を超える人々と、隣国チャドに流入した約25万のスーダン難民は、UNHCRと国際社会にもっとも困難な課題をつきつけている。ダルフールを訪れるたびに、絶望に打ちひしがれた難民たちは、「自分たちの生活がほぼ24時間危険と隣り合わせだ」と私に繰り返し訴えてくる。

 およそ3万4千人の国内避難民が暮らすダルフール地方ジェネイナ郊外にあるクリンディングというキャンプにいた高齢の難民は「一番の心配は身の安全だ」と語る。「動くこともできない。へたに動けば銃で撃たれて殺される。レイプされる女性も後を絶たない。いつ殺されるかもしれないと思うと夜も眠れない」。私は「和平が実現しなければ何の解決もない。国際社会は和平実現のためにもっと努力しなければならない」と答えるしかなかった。クリンディングその他のダルフール地方のキャンプでは、いまも「恐怖で眠れない夜」が続いているのではないかと私は心配している。

 これらの人々は紛争や暴力によって住み慣れた家を去り、国内避難民となったが、国境は越えていない。国連人権規約の調印国は、住む場所を追われた人々を含む自国の全市民に対する義務を負っていることを、少なくとも理屈上は認識しているはずだ。しかし、多数の難民を抱える国は往々にして、これらの人々に十分な保護と支援を与える手段も、その意思さえも持っていないことがある。

 国内避難民が発生した国では通常、国際的な援助が必要になり、この点からも、UNHCRやその他の国際機関がこれらの国への安全でスムーズなアクセスを得ることがきわめて重要になってくる。特に紛争後の状況では、支援体制に重複やすき間が生じないように、各機関の取り組みを調整することが何より重要だ。国連の緊急支援コーディネーターがそれまでのやり方を見直し、国連機関や国際赤十字、(イスラム教国の赤十字である)赤新月社、さまざまな国際NGOといった国際組織が人道的緊急事態において合意に基づく役割分担、つまり、「クラスター(連鎖的)アプローチ」をとるようになって以降、事態は多少ながらも改善している。

 このアプローチのおかげで、UNHCRは現在、世界23カ国での1400万の国内避難民を対象とする支援活動に取り組んでいる。それでも、UNHCRがどの程度貢献できるかは、現場のスタッフが、最低限の安全を手に入れたいと願う人々にどこまで接触できるかに左右される。従って、「保護する責任」が具体的に何を意味するかの定義に、「相手国の政府や非国家アクターが人道支援活動を妨げる障壁を設けない」ことを義務として埋め込む必要があるだろう。

フォーリン・アフェアーズ日本語版

Millions Uprooted: Saving Refugees and the Displaced

<フォーリン・アフェアーズ日本語版2008年10月号>

(C) Copyright 2008 by the Council on Foreign Relations, Inc., and Foreign Affairs, Japan

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