08年12月号
――遠因は世界におけるドル建て外貨準備の増大にある
■日米のバブル崩壊を比べると
――専門家の多くが、今回のアメリカの金融危機を1990年代の日本のバブル崩壊になぞらえている。日米それぞれの政治的対応を比較するとどうなるだろうか。
マーチン・ウォルフ 日米のケースには共通した部分がある。ともに大規模な資産バブルの崩壊であり、その背景にはでたらめな融資も行われていた。ともにクレジットの拡大に伴う不動産バブルだったし、特に日本の場合、不動産バブルが非常に重要なファクターだった。
だが、危機の内容や、それへの対応策をめぐってはいくつか重要な違いがある。第1に、日本での資産価値崩壊の規模のほうがはるかに大きかった。株式、土地、住居、商業用不動産などの価格はピーク時から70%近くも下落した。担保資産の価値が大きく崩れたわけで、巨額の不良債権が生み出されたのは当然の成り行きだった。その後、価格は長期間にわたって下がり続け、住宅価格の下落は約10年間も続いた。
一方、各種データから判断してアメリカでの住宅価格の下落が、日本と同じ規模になるとは思えない。ピークから底値までの下落率はせいぜい40%程度に留まる可能性が高い。株価についてはすでにリーズナブルな水準にある。むろん、下ブレする可能性はあるが、もう不合理に高い水準にはない。つまり、資産価格の下落は日本に比べれば小規模なものに留まるはずだ。
第2の違いは、日本の場合は安定的な寡占状態のもとで運営されていた銀行の不良債権が問題となったが、アメリカの場合、不良債権が証券化されていたために、金融危機が日本と比べてより早く、より広範囲に拡大した。アメリカでは住宅価格がピークをつけた約2年後に金融崩壊が起こったが、日本では8、9年後にバブルが崩壊している。同様に、日本では危機が発生してから約8、9年たってからようやく政府が介入したが、アメリカではすでに対応策をとっている。つまり、政府が問題に介入するという点では、アメリカは、かつての日本よりも7年早く行動を起こしたことになる。
アメリカでは「経済を泥沼から救い、経済を再生する必要がある」とみなすコンセンサスがあり、日本よりもはるかに早く対応プロセスを導入している。さらにアメリカには、どれだけ多くの犠牲を払うことになろうとも、経済の回復を成し遂げようとする断固たる決意が維持されると思う。
他方、日本の場合、アメリカとは違って債権国だった。日本政府は家計部門から借金をし、家計は(国債の買い入れを通じて)政府に多額のファイナンスを行っていた。(財務省証券を諸外国が引き受けてくれるために)外国の資金に依存しているアメリカに同じことができるかどうかはわからない。これに関連して、米ドルへの信頼が失われるのではないかという心配が多少なりともある。日本の場合、この点はそれほど大きな懸念材料ではなかった。
とはいえ、米ドルには依然として基軸通貨であるというアドバンテージがある。他の通貨が米ドルに代わって基軸通貨になるとは考えにくく、ユーロでさえ米ドルの地位を脅かすことはないだろう。アドバンテージとディスアドバンテージを考慮すれば、アメリカと日本のケースには似た部分が多いと考えることができる。イギリスなどのように、これらのアドバンテージを持たない国は厄介な事態に直面するかもしれないが、アメリカは今回の危機を何とか克服できると思う。
だが、アメリカ、そして一部の先進諸国は、かつての日本と似たようなプロセスをたどることになると考えられる。しかし、そのプロセスはより急速で過酷なものになるだろう。日本の場合はそれほど深刻なリセッションに陥ったわけではない。10年に及んだ景気の停滞、年1%程度の低成長の時代が続いたと考えるのが現実に近い。しかし、アメリカ経済は好不況の循環が鮮明になる傾向がある、深刻なリセッションを経験することになりそうだ。だが、それが2、3年続いたあとには、非常に力強い回復が起きるだろう。
長期的な尾を引くようなタイプではなく、むしろ過酷で痛みを伴うリセッションになるが、それは比較的短期間で終わる。アメリカ経済は日本よりももっと活力のある「資本主義システム」だ。これから2、3年後には回復に向かうだろうと現時点では予想している。
<フォーリン・アフェアーズ日本語版2008年12月号>
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