現在位置:
  1. asahi.com
  2. ニュース
  3. 国際
  4. フォーリン・アフェアーズ リポート
  5. 記事

温暖化対策の切り札としての地球工学オプション――地球工学オプションの恩恵とリスクの検証を

2009年4月10日発売号

    デビッド・ビクター/スタンフォード大学教授
    M・グランジャー・モーガン/カーネギーメロン大学 工学・公共政策学部・学部長
    ジャイ・アプト/カーネギーメロン大学工学・公共政策学部教授
    ジョン・ステインブルーナー/メリーランド大学教授
    キャサリン・リック/カーネギーメロン大学博士課程在籍

    ■地球崩壊シナリオに備えた緊急対応戦略

     温暖化が地球環境に与えるダメージは年を追うごとに、ますますはっきりとしてきている。月単位でみても、悪いニュースを聞かないことはない。氷河は予想以上のペースで溶けているし、海面水位もかつてみられなかったペースで急速に上昇している。植物もこれまでよりも春の早い時期に芽吹くようになり、水の供給と生活環境も脅かされつつある。渡り鳥でさえもこれまでとは異なる移動パターンを示している。

     気候変動が(一気に加速する)「危険な大転換点=ティッピング・ポイント」へと到達してしまう危険が高まりつつある。21世紀には、メキシコ湾流など主要な海流の流れが劇的に変化する可能性もあり、永久凍土層が溶け出して、大規模な温室効果ガスがさらに大気中に放出されることになる恐れもある。

     たしかに、そうした事態が今日・明日にでも起こるわけではない。だが、このシナリオが温暖化を加速し、その悪影響をますます深刻で複雑なものにしてしまうのは間違いない。

     科学者たちは、この地球崩壊シナリオを真剣に受け止めている。どのような事態を引き起こすかを予測するのが難しいほどに、大気中に着実に蓄積されている温室効果ガスが気候システムを急速に変化させているからだ。

     こうした地球温暖化のリスクのすべてを排除していくことは不可能だ。人間の活動によって排出され、地球温暖化を引き起こす二酸化炭素は、大気中に数時間留まるだけの通常の大気汚染物質とはまったく違っている。ひとたび二酸化炭素が大気中に入れば、その多くが数百年にわたって大気中にとどまり続ける。

     いかなる地域で排出されても、二酸化炭素がグローバルな地球環境問題を深刻化させていくことに変わりはない。そして、気候システムには問題をゆっくりと是正していく力しかない。これは、バスタブにお湯を入れる蛇口が大きいのに対して、排水溝が小さいこと(つまり、ゆっくりとしか排水されないこと)を想起すれば分かりやすいだろう。

     温室効果ガスのレベルを低下させていく唯一の方法は、排出量を劇的に減らしていくしかない。だが、地球温暖化のペースを現状レベルに留めるだけでも、排出量を60〜80%も削減していかなければならないし、しかも大気中の二酸化炭素が安定化するには、あと数十年はかかる。

     人間の活動のなかでも、もっとも多くの二酸化炭素を排出させるのが化石燃料を燃焼させることだ。だが多くの諸国は、排出量を削減するための抜本的な措置を導入することに乗り気ではない。曖昧で実体のわからないグローバルな目標である地球温暖化対策よりも経済成長のほうが優先されてしまうことが多いからだ。

     アメリカにいたって、排出量の削減はもちろん、排出量の上限枠(キャップ)さえ導入していない。欧州連合(EU)は排出権取引システムを導入しているが、理論上はともかく、排出権取引の価格が低すぎるために、現状では、生産活動の大幅な見直しを迫るのは難しい状況にある。

     1991年に厳格な炭素税を他国に先駆けて導入したノルウェーにおいてさえも、二酸化炭素の排出量は実質的に増大しているし、地球温暖化対策を強化していくことを表明している日本政府も、経済成長の必要性とエネルギーシステムが依然として化石燃料に多くを依存していることのバランスをどうとるかに苦慮している。

     一方で、エネルギー生産の多くを石炭燃焼に依存して驚くべき経済成長を遂げた中国は、アメリカを抜いていまや世界最大の二酸化炭素排出国になっている。

     世界各国の二酸化炭素排出量の削減が思うに任せず、地球環境が急激に悪化する「ティッピング・ポイント」を超えてしまう危険が迫りつつある以上、政策決定者は、地球温暖化の余波を少しでも和らげるための緊急対応戦略の詳細を検討しておく必要がある。

     ここで言う緊急対応策とは、(地球環境を工学的に改善していく)地球工学(ジオエンジニアリング)とよばれるやり方のことだ。地球工学的温暖化対策とは、例えば、(太陽光の一部を遮断するために)反射性の粒子を大気中にちりばめたり、あるいは、地球を冷やすためのサンシェード(日よけ)を設けたりするなど、地球規模のスケールで工学システムを配備することを意味する。

     ただし、地球工学的なやり方で地球を冷やすことはできるが、大気中に蓄積される二酸化炭素の排出量を減らすことはできないし、その結果引き起こされる地球環境へのダメージの全てを緩和することもできない。こうした理由から、二酸化炭素排出の削減に強くコミットしている人々は地球工学的な手法を毛嫌いしがちだ。

     地球工学に関する本格的な研究はまだ初期段階にあり、政治家もその可能性について然るべき関心を示していない。だが、すでに地球工学オプションの可能性について真剣に検討する時期にきている。深刻な地球環境の変化が重要なエコシステム(生態系)と数十億の人々の生命を危険にさらすような事態になった場合、地球工学は地球環境を守る上で有意義な手段となる可能性を秘めているからだ。

     だが、温暖化の余波を和らげるためにシールドをめぐらすかどうかは政治的判断となる。特定国の緊急事態が別の国にとっての機会となることもある。したがって、「地球温暖化対策が放置されていることの弊害」、そして、「地球工学的手法を用いた場合に効果よりも実害が上回るリスク」の間のバランスをどこに求めるかについて、全ての国が合意することはほぼあり得ない。だからこそ、各国政府は地球工学に関する本格的な研究、さらには、その利用を管理下におくための国際的な規範確立に向けて直ちに行動を起こす必要がある。

    The Geoengineering Option: A Last Resort Against Global Warming?

    フォーリン・アフェアーズ日本語版

    <フォーリン・アフェアーズ・リポート2009年4月10日発売号>

    (C) Copyright 2009 by the Council on Foreign Relations, Inc., and Foreign Affairs, Japan

    PR情報
    検索フォーム
    キーワード:


    朝日新聞購読のご案内
    • 中国特集