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原油価格の安定がもたらす地政学的チャンスに目を向けよ――原油生産能力は増強され、需要の伸びは低下する

2009年9月10日発売号

    エドワード・モース ルイス・キャピタル・マーケッツ マネージング・ディレクター

    ■石油の地政学を考える

     エネルギー需要の伸びがより穏当なレベルに留まるとすれば、オバマ政権、OECD諸国政府はエネルギー市場のボラティリティを小さくし、自国の長期的な利益と合致するような産油国との合意をまとめる大きなチャンスを手にする。だがこの機会を生かすには、ワシントンは国内の環境政策、エネルギー政策同様に、国際的なエネルギー戦略を積極的に進めていく必要がある。

     オバマ政権は、アメリカとOECD諸国の関係を規定している製品に関するグローバルな貿易と投資のルールを石油と天然ガス市場にも適用していくことを外交目的の一つに掲げるべきだし、これを、中国、メキシコ、ロシア、そしてOPEC諸国にも受け入れさせるように努力すべきだ。2007〜2008年には産油国の資源ナショナリズムが大きく高まり、石油が外交ツールとして用いられたが、こうしたルール導入を試みれば、資源ナショナリズムの台頭を抑え、資源が外交ツールとして用いられるリスクも低下させることができる。

     石油市場をめぐる地政学を規定しているのは、もちろん、輸送部門を中心に世界が石油資源に依存し、しかも石油資源を一握りの産油国が握っているという現実に他ならない。この基本的な事実が世界を三つの国家集団に分けている。

     第1のカテゴリーに属するのは、アメリカ、カナダ、西ヨーロッパ諸国、そしてアジアのOECDメンバー国だ。この集団に属する諸国どうしは石油を政策ツールとして用いることを放棄している。エネルギー資源へのアクセスの試みを阻止しようとするのを互いに止め、エネルギー資源を動かすことで利益を得ることを互いに慎んでいる。この集団内のエネルギー資源輸出国は、輸入国に武器輸送、建設プロジェクトを与えて優遇することもなく、国際機関で輸入国の立場を擁護する行動をとったり、石油とはほとんど関係ない領域で輸入国に配慮した行動を取ったりすることもない。逆にいえば、これら第1カテゴリーに属する諸国は、OPEC加盟国、ロシア、新興市場国とは微妙な関係にある。ただし(禁輸措置の適用という形で)明確に石油を外交ツールとして用いることがある。これは、イランや最近までのリビアに対する米欧の路線からも明らかだろう。

     石油や天然ガスからの輸出に歳入の多くを依存する2番目の国家集団は、エネルギー外交を依然として重視している。比較的穏やかな市場環境、あるいは、資源価格が低水準で推移している場合にも、市場が自分たちに有利に作用しているときと同様に、資源保有国は市場に依存せざるを得ない。

     これは、資源保有国といえども、一方的には消費国につけ込めないこと、つまり、消費国を犠牲にして利益を得にくいことを意味する。むしろ、資源の輸出国と輸入国は、利益と損失を相対的にとらえざるを得ない。双方とも利益を得るか、双方とも損失を被るかだが、なかには突出した利益を上げたり、大きな損失を被ったりする国もでてくる。

     だが市場が逼迫してくると、あからさまに、資源を外交ツールとして用いる資源保有国も出てくる。ロシアのように、資金確保、あるいは政治的な思惑から輸入国への供給を打ち切るなど、あからさまで残忍な手段を取る国もあれば、イランやベネズエラのように、より微妙な工作をする国もある。実際、テヘランは石油からの歳入を、イラク、レバノン、パレスチナ、サウジでの自国の利益を促進するために用い、時には、これらの諸国の政府に対抗する武装勢力を支持することで国益を高めよう試みてきた。カラカスも、石油からの歳入をラテンアメリカ全域での反米主義活動の資金として提供している。

     一方、ブラジル、中国、インドなど、新興国の大半を含む第3の集団にとって、構図はより複雑だ。中国とインドは主要な石油輸入国で、両国の国内エネルギー市場では国有・国営企業が圧倒的に大きなプレゼンスを持っているが、こうした国営企業の活動も一方では市場メカニズムに左右される。ブラジル、インド、中国は、OECD諸国との関係では市場メカニズムに即した対応策をとり、貿易と投資の流れを、政治的にではなく、経済的にとらえることを心がけている。当然、エネルギーを外交手段に用いる能力は一般的に制約される。だが、OECD加盟国以外の国々との関係では、これら諸国、特に中国は国営石油企業を用いて、資源へのアクセスを得る見返りに、相手国に兵器を無償で提供するか、市場価格を下回る価格で売却し、建設プロジェクトを実施している。

     だが、エネルギー価格が低い水準にあるときは、こうしたやり方は高くつく。したがって、ワシントンは、石油に関する開発投資や貿易を純然たる商行為として行う方がより大きな恩恵を手にできることを、外交を通じてこれらの諸国に伝えるべきである。こうした新興市場国もエネルギー部門への補助金政策の経済効率が悪く、コストがかなり大きくなることを理解している。また、これらの新興国、特に中国は、OECD諸国が自国の国営企業による投資の受け入れに、もっと開放的になることを強く望んでいる。

     莫大な規模の外貨準備を擁する中国は、自国への長期的な資源の安定供給や、有利な価格での長期的な資源輸入を確保するために外国企業を買収する力を持っている。だが、中国に対して変則的なやり方をとるのではなく、国際エネルギー市場を通じた資源調達をするように政策的に働きかけることが重要だ。

     新興市場国の資源にばかり目を向け、これを一人で押さえようとする路線をやめさせるには、一定の条件をつけて、石油、天然ガス、その他の原材料を生産する欧米の企業に中国企業が投資することを認めるべきだろう。ここで言う一定の条件とは、中国が反腐敗・汚職ルールなどOECD諸国が遵守している行動基準を受け入れ、中国に進出している欧米企業が、現地企業と同じ土俵で活動できるように北京に約束させることだ。

     また、ワシントンおよび同盟国政府は、民主国家で主要な資源輸出国であるブラジルに対して、石油産業の独占状態に終止符を打ち、主要な国営石油企業であるペトロブラスがライバル企業と競い合うような環境をつくることで、同社の競争力と誠実な企業活動を促す路線をとるように働きかけるべきだ。国際的投資を受け入れ、外国の投資家・企業を国営企業と同等に扱うようになれば、自滅的な資源ナショナリズムもいずれ落ち着きを見せていくはずだ。

    フォーリン・アフェアーズ日本語版

    <フォーリン・アフェアーズ・リポート2009年9月10日発売号>

    (C) Copyright 2009 by the Council on Foreign Relations, Inc., and Foreign Affairs, Japan

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