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NATOを中枢に据えたグローバルな安全保障ネットワークを形成せよ

2009年9月10日発売号

    ズビグネフ・ブレジンスキー 元米国家安全保障担当大統領補佐官

    ■NATOはアフガンにどう関与すべきか

     グローバル秩序内でのパワーが拡散するとともに、大衆の政治的反発が高まっている。これが重なり合って、一触即発の危険な状態が生じている。こうした危険な国際環境においては、NATO加盟国は真っ先に、アフガニスタンという域外での軍事活動に関する「政治的に受け入れ可能な結末」は何かを定義し、その実現にむけて協調行動をとらなければならない。

     アメリカがアフガニスタンにおけるアルカイダの聖域を粉砕する戦争を始めたとき、NATO同盟国は条約の第5条を発動して、アメリカと行動をともにすると表明した。NATO同盟諸国は、アメリカの圧力を受けたからではなく、自ら第5条を発動した。当然、同盟国は、軍事活動への参加に条件をつけず、アフガニスタンとパキスタンが切実に必要としている経済支援を提供し、軍事・経済上のコミットメントを共有していかなければならない。部隊と資金援助への大半をアメリカが負担するような事態は許されない。

     たしかに「言うは易く行うは難し」かもしれないが、同盟国にアフガニスタンへの軍事支援、経済援助を求めていくのは、NATOの新事務総長の非常に重要な政治的任務だ。原則的に、全ての加盟国が可能な限りの貢献を行い、消極路線に終始するメンバー国が一つもあってはならない。必要とされている軍事、社会、経済支援への各国の貢献を定期的に公表し、ともに検討する必要がある。こうしないかぎり、NATO条約第5条はいずれ意味を失っていく。

     理論的には、NATOが「アフガニスタンでこれ以上努力しても無駄だ」という結論を特定の段階で出す可能性はある(すでに一部の加盟国の代表者は、プライベートな場では、まるでそうした結論をすでに下しているかのような発言をしている)。同盟国のなかには、目立たぬようにコミットメントを撤回する一方で、「アルカイダが北米やヨーロッパをターゲットとする新たな攻撃をアフガニスタンかパキスタンを拠点に試みれば、NATOは直ちに反撃する」という警告を出すように促すことで、帳尻を合わせようとする国も出てくるかも知れない。しかし、公式に表明はしなくても、NATOが部隊を撤退させれば、世界の人々は、かつてアフガニスタンから撤退せざるを得なくなったソビエト軍のイメージをNATO軍に重ね合わせるだろう。このような展開になれば、アメリカとヨーロッパの間で非難の応酬が起き、結果的にNATOの信頼性が大きく損なわれ、アフガニスタンとパキスタンにいるタリバーンが2億人の人口と核兵器を支配するような事態へと道を開きかねない。

     政権発足から間もない時期に、アフガニスタンへの政策の見直しを終えたオバマ政権は、「アフガニスタンの安定は軍事手段だけでは実現できない」という妥当な見方を示した。アフガニスタンを安定させるには、タリバーンが勝利することを許さず、アフガニスタン国軍による監視地域を段階的に拡大させるような軍事努力と、アフガニスタン民衆の生活を改善させ、政府の統治能力を高めるための国際的な支援とをうまく組み合わせなければならない。

     この路線のほうが、旧路線よりもはるかに穏健で現実的だ。旧路線は、都市部にしか近代化の兆しはなく、地方はいまだに多くの意味で中世のようなたたずまいの社会に近代的な民主主義を構築しようと試みた。アフガニスタンからアルカイダの聖域をなくすことが主要な目標とされている以上、現地の穏健派タリバーンとの和解という選択肢を排除する必然性はない。現実にこうした展開になれば、NATOの段階的な撤退に向けた道もひらけてくる。

     オバマ政権による路線見直しによって、「政治的に受け入れ可能な結末」が何であるかについての現実的な基盤はすでにできているが、一つ重要なポイントが抜けている。それは「パキスタンがカブールの非原理主義政権を政治的・軍事的に誠実に支援しない限り、アフガニスタンでのタリバーンとの紛争は決着しない」という客観的事実を踏まえた戦略を明示していないことだ。現実には、パキスタンがカブールの政権を全面的に支援することはほぼあり得ない。パキスタン国内、特に地方ではイスラム原理主義が台頭しているし、パキスタン軍も「(パキスタンをめぐる)自国の安全保障利益と米英が配慮するインドの安全保障利益は両立しない」とみているからだ。

     困ったことに、パキスタン軍の一部は「宗教色の薄い文民が支配するパキスタンが、パキスタンを脅かすインド、そしてパキスタンの影響力を逃れようと地政学的思惑からインドに近づこうとするアフガニスタンの間に不安定に身を置く」よりも、「タリバーンが統治するパキスタンが、同様にタリバーンによって支配されるアフガニスタンを実効支配するほうが好ましい」とさえ考えている。

     インドをライバルとみなす中国は、(インドのライバルである)パキスタンが力強い国家になれば、自国にとって戦略的にプラスに作用するとみている。つまり、パキスタンの長期的な安定をテーマとする対話に中国を参加させれば、アフガニスタンやインドに対するパキスタンの懸念を緩和させることもできるだろう。インドは、パキスタン同様に相手を敵視しているが、少なくとも、パキスタンが地域的な混乱を作り出さないようにすることは自国の利益になるとみている。同様に、タリバーンを敵視するイランも、2002年にそうしたように、アフガニスタン西部地域の安定化に向けて建設的な役割を果たすことができるだろう。

     南アジア地域がカオスへと陥っていくのを回避するにはどうするのが最善か。NATOが、これをテーマとする戦略対話に中国、インド、イランの参加を積極的に働きかけるべきタイミングは今だろう。こうした戦略対話なしでは、NATOが最初に発動した条約第5条による集団安全保障のコミットメントは、いやになるほど長期化し、NATOに深い亀裂を生じさせ、同盟関係を崩壊へと追い込んでしまう危険さえある。

    フォーリン・アフェアーズ日本語版

    <フォーリン・アフェアーズ・リポート2009年9月10日発売号>

    (C) Copyright 2009 by the Council on Foreign Relations, Inc., and Foreign Affairs, Japan

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