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金融超大国・中国の政治的ジレンマ――重商主義路線か資本の自由化か

2010年7月10日発売号

    ケン・ミラー/米国務省諮問委員会メンバー

    ■金融超大国としての中国の台頭

     経済成長への特異なアプローチゆえに、中国は、巨大な資本と他を脅かす輸出競争力を持つ、他国とのバランスが取れないほど大きな巨人に変貌してしまった。トウ小平(トウは登におおざと)が1979年に経済改革路線を導入して以降、中国企業は安価な労働力と資本コストを武器に国際市場競争に参入し、その活動はいまやますます効率的になっている。

     だが現在でも、中国は輸出を事実上の補助金で支えている。輸出企業に特別レートの融資を提供し、中国商品の外国のバイヤーに特別の為替レートの適用を認めるといった方法で、直接的に輸出を押し上げ、間接的にも、エコノミストが「金融抑圧」策と呼ぶ手法を取って、国内の投資が中国の輸出関連産業に向かうように仕向けて輸出体制を強化している。

     その結果、貿易から得た莫大な利益やキャッシュフローが中国の中央銀行である中国人民銀行へと流れ込んでいる。例えば、2009年末の時点で、中国人民銀行は2.4兆ドル規模の外貨準備を保有している。これは現在の中国人民銀行が、世界の中央銀行のなかでも最大の外貨準備を持っていることを意味する。しかも、この数字には国内における主要な商業銀行が保有する外貨は含まれていないし、2010年には外貨準備はさらに3000億ドル増えると考えられている。

     かつてなく強力な金融パワーを持つ国になった中国は、このパワーを他国との関係においてどう使うのがもっとも好ましいのかを試行錯誤している。

     外交的には台湾を統合することがきわめて重要な目標とされているが、金融外交については、「中国の経済成長を刺激し、雇用を創出すること」が最優先課題に据えられている。この課題の実現を模索していけば、政府はかなりの正統性を手にできる。金融外交の目的が「世界秩序の中枢に居場所を見いだしつつある」と自覚する中国民衆のプライドにうまくフィットするからだ。腐敗、格差、自由の制限、環境悪化など、北京は頭の痛い問題を抱えているが、経済が成長し、雇用が創出され続ける限りは、中国共産党政権の権力基盤は揺るがないだろう。

     「国際金融領域における中国の影響力が大きく高まりつつある」と言うと、中国が何か野心的な試みをしているように聞こえるかもしれない。だが、実際には、中国は非常に慎重な路線を取っている。

     たしかに、中国人民銀行総裁は、世界の準備通貨であるドルを、国際通貨基金(IMF)のSDR(特別引き出し権)に置き換えていくことを2009年3月に提案したが、北京がこの路線を近い将来に推進していきそうな気配はない。

     同様に、人民元を国際通貨にしようとする試みも、現在のところ、ゆっくりとしたペースでしか進展していない。たしかに、中国はアルゼンチン、ベラルーシ、香港、インドネシア、マレーシア、韓国と通貨スワップ協定を交わし、中国製品の輸入決済に特定国が人民元を用いることも認め始めている。さらに、上海と広東省の四つの都市の企業には、外国からの輸入決済に人民元を用いることも許可している。しかし、資本勘定の自由化をして、人民元を自由に外貨と交換できるようにするつもりはない。

     中国の指導者たちは、国際通貨基金や世界銀行の高官ポストに中国人を送り込み、新しい地域金融機構への参加を検討し、地域貿易での人民元による決済を促していくつもりかもしれない。だが、少なくとも現在のところ、「ドルの世界」から抜け出せずにいる。

     むしろ、中国の金融外交とは、外貨準備を蓄積して、それを直接投資、援助、支援、融資など、さまざまな形で外国に投入するというシンプルな戦略を基盤としており、その目的は、エネルギー資源、新技術やマネジメントのノウハウ、流通ネットワークへのアクセスを確保して中国経済を成長させることで、共産党の正統性を高めることにある。

     グローバル・インバランス(世界規模の経済不均衡)問題を心配している欧米の政策決定者は、中国が高まる一方の金融上の影響力をどのように用いるつもりなのか、気を揉んでいるだろう。だが、アメリカの政府高官や中国専門家の多くは、国際資本市場を混乱させるために中国が強大な金融パワーを悪用するとは考えていない。

     とはいえ、本質的にパワーとは、それを用いなくても大きな影響力を持つものだ。かつてない金融上の影響力を手にしている北京は、いまやグローバル経済のすべての領域できわめて大きな影響力を手にしている。

        ◇

    Ken Miller 投資銀行、ケン・ミラー・キャピタルLLCの最高経営責任者(CEO)で、2010年の上海万博のアメリカ館・館長を務めている。米国務省の国際経済政策諮問委員会のメンバー。

     <フォーリン・アフェアーズ・リポート2010年7月号掲載>

    (C) Copyright 2010 by the Council on Foreign Relations, Inc., and Foreign Affairs, Japan

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