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ロシアのNATO加盟を――汎ヨーロッパ安全保障秩序の確立を

2010年7月10日発売号

    チャールズ・クプチャン/ジョージタウン大学教授(国際関係論)

    ■ロシアをポスト冷戦秩序のどこに位置づけるか

     2010年11月に開催される北大西洋条約機構(NATO)首脳会議で、加盟国首脳はNATOを進化させる指針として新戦略概念を採択する手はずになっている。現状で、最優先課題に据えられているのがNATOとロシアとの関係をどうするかだ。

     ソビエト崩壊以降、NATO同盟国は、ロシアを締め出す形でポスト冷戦秩序を形作ってきた。事実、NATOと欧州連合(EU)は、中央・東ヨーロッパ諸国を内に取り込みつつも、ロシアをアウトサイダーとして扱い、ユーロアトランティック(米欧)コミュニティの主要な制度・機構から締め出してきた。もちろん、ロシアが孤立したのは、それを欧米が意図したからだけではなく、ロシア側にも責任がある。民主制度への移行が遅々として進展せず、しばしば外交的勇み足を踏んだために、NATOは拡大主義のロシアの復活に備えた保険策をとらざるを得なかった。

     とはいえ、欧米が、ロシアのことを「戦略的なはぐれ者」として今後も扱い続けるのは、歴史的な間違いだ。「ナポレオン戦争後や第二次世界大戦後に(日独を含む)大国間の平和が実現したのは、かつての敵対勢力を戦後秩序に参加させたからだ」という歴史の教訓を思い起こす必要がある。対照的に(戦後枠組みからドイツを疎外した)第一次世界大戦後の秩序は短命に終わっている。つまり、拡大ユーロアトランティック秩序にロシアをしっかりと組み込むことが、現在のNATOの最優先課題でなければならない。

     NATOが1990年初頭に旧ソビエトの新生諸国をメンバーに迎え入れ始めて以降、ロシアはNATOの東方拡大に対して強く反発してきた。だが、当時はロシアが経済的、軍事的に衰退する一方で、欧米が優位を保っていたために、NATO加盟国は、ロシアの不満や反発がどのような帰結を招き入れるかなど、そう気にかけることもなかった。

     政治学者のダニエル・デュードニーとジョン・アイケンベリーが指摘するように、「アメリカのパワーが高まるにつれて、ロシアのパワーが低下するという環境のもと、ワシントンの政策決定者は、ロシアなどもはや問題ではなく、アメリカは好きなことを思い通りにできると考えているかのような行動をとるようになった」

     しかし、その後、戦略環境は大きく変化し、ユーロアトランティック秩序からロシアを排除することのコストは大きく増大した。クレムリンが再び権力独占志向を強めるなか、エネルギー価格の上昇で経済が息を吹き返し、ロシアは再び活力を取り戻した。いまやロシアは、NATOを押し返せる自信と力を持っている。

     しかも欧米はモスクワの協力を切実に必要としている。イランの核開発封じ込めに始まり、軍備管理、核不拡散、アフガニスタンの安定、対テロ戦争、エネルギー安全保障までの一連の課題に対処していくにはモスクワの協力が不可欠だ。

     一方で、NATO拡大がいまも続いているために、ユーロアトランティック秩序におけるロシアの位置づけをどうするかが、ますます切実な対応を要する問題になってきている。

     2010年2月に公表されたロシアの新戦略ドクトリンは、NATO拡大を主要な外的脅威として位置づけている。グルジアとウクライナをメンバーにすることを検討してきたNATOの動きによって、欧米とロシアの緊張が危険なまでに高まったのも事実だ。実際、2008年のロシア・グルジア戦争の背景には、グルジア西部が地政学的にNATOに編入される可能性に対するロシア側の焦りと不安があった。

     NATO拡大にたんに反対するだけでなく、ロシアはユーロアトランティックの安全保障構造を再編・再活性化するための選択肢をすでに示している。2009年11月、ロシア政府は、汎ヨーロッパ安全保障構造を示した新ヨーロッパ安全保障条約案を発表している。NATO同盟国にとっても、「ポスト冷戦秩序におけるロシアの立場をいかに位置づけるか」という課題の検討を、永遠に先送りできる状態ではなくなってきている。

     ロシアをユーロアトランティック・コミュニティ空間に組み込むという構想を実現するのは不可能ではない。はっきり言えば、ロシアをNATOのメンバーにすべきなのだ。ロシアのNATO参加を認めれば、NATOが主要な安全保障機構として機能しているユーロアトランティック秩序が論理的に完結する。ソビエトブロックの崩壊を受けて、NATOの東方拡大プロセスに乗り出した欧米は、いまこそ、ロシアとその他の独立国家共同体(CIS)をNATOに組み込み、このプロセスの完結を試みるべきだろう。

     もちろん、汎ヨーロッパ秩序を模索していくための選択肢はほかにもある。ロシアが主導し、アルメニア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ウズベキスタンが参加している集団安全保障機構(CSTO)とNATOが条約を締結することもできるし、ロシアが参加する全欧安保協力機構(OSCE)の権限を強化することもできるだろう。また、ロシアが提案する新ヨーロッパ安全保障条約案を受け入れることも一案だろう。

     しかし、世界でもっともパワフルな軍事同盟であるNATOにはすでに28カ国が参加しているし、今後も加盟国が増大していくと考えられる以上、その他の機構や条約という選択肢は、NATOという選択肢に比べればサイドショーでしかない。汎ヨーロッパ秩序構築への唯一の合理的な道筋は、ロシアをNATOに参加させることだ。

     加盟すれば守らなければならないルールや制約がつきまとうために、ロシアは、NATOへの参加を見送り、独自の道を選択するかもしれない。だが、欧米の民主国家は汎ヨーロッパの秩序のなかにロシアを受け入れるためのビジョンと意思を示し、少なくとも、ユーロアトランティック・コミュニティの主要機関であるNATOがロシアを取り込めない場合でも、それがクレムリンの判断ミスであるという構図を作る必要がある。

        ◇

    Charles A. Kupchan ジョージタウン大学国際関係学教授。米外交問題評議会シニア・フェロー。最近の著作に『旧敵はいかに友人になったか』がある。専門はNATO、EU、バルカン、米国家安全保障戦略など。

     <フォーリン・アフェアーズ・リポート2010年7月号掲載>

    (C) Copyright 2010 by the Council on Foreign Relations, Inc., and Foreign Affairs, Japan

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