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ウクライナをヤヌコビッチ大統領から救うには

2010年8月10日発売号

    アレクサンダー・モティル/ラトガーズ大学政治学教授

    ■経済と政治の安定に努めるはずが・・・

     2010年2月、ウクライナのビクトル・ヤヌコビッチ元首相は見事な政治的カムバックを遂げた。2004年の大統領選で、ヤヌコビッチはレオニード・クチマ大統領の後継者として出馬した。だが選挙不正が明るみに出た結果、ビクトル・ユーシェンコとユリア・ティモシェンコ率いるオレンジ革命を誘発し、権力の座は泡沫の夢に終わった。あれからわずか5年後の2010年。自らが党首を務める地域党の青と白の旗に囲まれて、ウクライナ大統領に就任したのはヤヌコビッチその人だった。

     オレンジ革命で誕生したウクライナ政府は、民衆が熱望する政治改革とヨーロッパへの迅速な統合を実現すると考えられていた。だがユーシェンコ大統領とティモシェンコ首相が常に衝突し、互いを批判し、協力できないことが明らかになると、人々の期待は粉々に砕かれた。機能不全に陥った政治システムは、結局は「ドタバタ劇場」と揶揄された。

     そこに世界的な経済危機が追い打ちをかけ、ウクライナ経済は大混乱に陥る。2009年に国内総生産(GDP)が約15%、輸出が25%、輸入が40%近く落ち込む一方で、消費者物価指数は12%上昇した。人々の怒りと不満は急速に膨らんでいった。

     生活の安定を求める市民たちは、2010年初頭の大統領選では、混乱を収拾できる人物なら誰でも支持するつもりだった。ヤヌコビッチにとって最大のライバルだったティモシェンコは、混乱の原因を作った人物の一人とみなされたため、有権者の支持を得るのは難しかった。

     ヤヌコビッチは、「親ロ路線を取るか親欧米路線を取るか」をめぐって分断されていた国内をまとめる「穏健で民主的なプロの政治家」いうイメージを巧みに売り込んだ。「自分ならロシアと欧米の間でうまくバランスをとり、国内経済を大きく成長させ、ウクライナを世界でもっとも豊かな20カ国の一つにできる」と彼は主張した。ヤヌコビッチ陣営は、過去のマイナス・イメージを払拭する「民衆のための国、ウクライナ」という絶妙なスローガンを唱えた。

     「権力欲に取り憑かれたティモシェンコ」とは違って、ヤヌコビッチは「自己実現よりも市民の利益を優先する候補」として自らを売り込んだ。「自分は2004年の過ちから教訓を学んでいる」とも訴えた。2009年12月に彼はウクライナの有力紙の一つドゼルカロ・ティジュニャ紙に記事を寄稿し、「オレンジ革命の真の狙いはロシアを弱体化させることにあったという考えは今も変わらない。しかし、この運動が、民主主義を求める人々の声を映し出していたことを今では受け入れている」と告白し、政府といえども「市民が構成する社会全体の積極的な参加がなければ、大きな社会経済計画は実現できない」との認識を示した。

     理由はともかく、大統領選でのヤヌコビッチの勝利は驚くほど僅差だった。第1回投票の得票率は約35%。決選投票でも49%弱。これに対してティモシェンコは決選投票で45%の支持を取り付けた。しかも投票率は69%程度だったわけで、これは、実際にはヤヌコビッチを明確に支持したのは全有権者の3分の1にすぎないことを意味する。かたやユーシェンコは自分の支持者たちに投票用紙の「支持者なし」欄を選ぶよう促していた。そうでなかったら、勝利を手にしていたのはティモシェンコだったかもしれない。

     政治基盤が弱体である以上、ヤヌコビッチは選挙後、穏健路線を取って野党に接近し、経済の安定と政治改革に力を注ぐだろうと多くの人が考えていた。ところが大統領に就任したヤヌコビッチは、すぐに非民主主義な措置を取り、破綻寸前の経済を放置し、大部分の有権者が不快感を覚えるほどロシアへと急接近した。

        ◇

    Alexander J. Motyl 歴史家で、2001年に出版した『帝国の衰退、崩壊、そしてリバイバル』で、政治枠組みとしての帝国という概念を示した。現在、ラトガーズ大学政治学教授で、中央・東ヨーロッパ研究プログラムの共同ディレクター。

     <フォーリン・アフェアーズ・リポート2010年8月号掲載>

    (C) Copyright 2010 by the Council on Foreign Relations, Inc., and Foreign Affairs, Japan

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