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変ぼうしたロシア社会と「ロシアの春」? ―― 都市と地方の不満が一体化すれば

2012年10月10日発売号

    ミハイル・ドミトリエフ/戦略研究所(モスクワ)所長

    ダニエル・トレーズマン/カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)教授(政治学)

    ■ロシアの「サイレントマジョリティ」とは

     ロシアで反政府運動が近年になく盛り上がっている。きっかけは2011年12月の下院選挙だった。与党側に不正があったとして、選挙結果に納得しない市民がモスクワ中心部へと繰り出した。彼らはさまざまな場所にキャンプを張り、人間の鎖をつくり、公正さを求める白いリボンを身につけ、ウラジーミル・プーチン時代の古い政治体質を問題にした。プーチンが12年前に初めて大統領に就任して以降、クレムリンがこれほど「火消し」に躍起になるのは初めてのことだ。

     だが世界の新聞の一面を飾り、都市部の数十万の人々がデモに繰り出したとはいえ、人口1億4300万のロシアからみれば、彼らは少数派にすぎない。ロシア政治の未来にとって大きな試金石は、彼ら政治意識の高い少数派が、モスクワとサンクトペテルブルグ以外の地方で暮らす、物言わぬ多数派(サイレントマジョリティ)の共感をどの程度得られるかにある。

     だが、ロシアのマジョリティの立場をきちんと理解している専門家はほとんどいない。このために、次のような固定観念がまかり通っている。「ロシアの地方で暮らす人々は政治に無関心な画一主義者たちで、モスクワなどで暮らす都会人を生活の厳しさを知らないひ弱な連中とみなし、嫌っている。地方の人々の考え方は保守的で、多くはプーチンを支持し、欧米を信用しておらず、ソビエト時代の秩序にノスタルジーを感じている」

     だが最近の新しいデータは、ロシアのマジョリティについてもっと現実的な姿を浮き彫りにしている。モスクワの戦略研究所(CSR)は2012年3―5月に、ロシア全土16地域で62の討論グループを組織し、対話形式の調査を行った。われわれは、ポーランドと国境を接するカリーニングラード(カリーニングラード州)から、カザフスタン国境に近いノボトロイツク(オレンブルグ州)までの広い地域でこの調査を行った。

     大都市としてはモスクワとウラル山脈の東側のスベルドロフスク州のエカチェリンブルグ、中規模の都市にはウラジーミル州にある古都ウラジーミル、サマラ州のトリヤッティ、南部のアストラハン州のアストラハン、そして小さな町としてはモスクワ近郊のチェルノゴローフカを含む町で調査を実施した。

     討論グループは基本的に10人とした。他のグループと意識の違いがあるかどうかを比較するために、モスクワのデモ参加者だけのグループも調査対象に加えた。それぞれのグループで、ディスカッションリーダーが年齢、性別、教育、社会的・経済的地位の異なる参加者に、政治的価値観や関心のある政策、それに現在と未来の指導者像について聞いた。

     結果は驚くべきものだった。たしかにモスクワとサンクトペテルブルグ以外の地方で暮らす人々は、騒がしい街頭デモや抽象的なスローガンには興味を示さなかったが、彼らも、「現在の政治システムは絶望的に腐敗しており、基本的な行政サービスを提供することさえできない」と考えている。到底、現状に満足などしていない。プーチンを支持する声は小さくなる一方で、今度大きな経済危機が起きれば、地方の民衆も大規模な抗議行動に参加するかもしれない。

     大都市と地方では人々の関心も文化も違うが、自由と民主主義の拡大を求める都市部の活動家の声と、警察官に規律を、医療機関にもっとまともな診療を求める地方住民の声は同じ方向に向けられている。世界をみれば、国家としてまともに機能しているのは、市民への説明責任を果たす政府が存在する地域であることは歴然としている。ロシアの民主活動家の課題は、二つの不満と変化への希求をひとつにまとめあげることだ。一方、クレムリンにとっては、それを阻止することが最重要課題だろう。

        ◇

     Mikhail Dmitriev 戦略研究所(モスクワ)所長。ロシア経済開発貿易相第1次官(2000―04年)、労働社会開発省第一次官(1997―98年)、連邦議員(1990―93年)を歴任。

     Daniel Treisman カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)教授(政治学)。著書に『回帰――ゴルバチョフからメドベージェフにいたるロシアの旅』。

    〈続きはフォーリン・アフェアーズ・リポート10月号〉

    (C) Copyright 2012 by the Council on Foreign Relations, Inc., and Foreign Affairs, Japan

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