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中国を対外強硬路線へ駆り立てる恐れと不安 ―― アジアシフト戦略の誤算とは

2012年11月10日発売号

    ロバート・ロス/ボストン・カレッジ 政治学教授

    ■アジアシフト戦略

     トウ小平(トウは登におおざと)が経済の開放化路線を導入した1970年代末以降、中国はパワー(国力)、富、軍事力を培いつつも、多くの諸国との間で協調的で友好的な関係を維持することに努めてきた。だが、それも北京が路線を変更した数年前までの話だ。

     2009年以降、中国は近隣諸国を離反させ、各国の懸念を掻き立てるような行動をとり始めた。例を挙げよう。2009年12月、国連の気候変動枠組条約・締結国会議で頑迷に妥協を拒む中国の態度に、ヨーロッパとアメリカは困惑と怒りを隠せなかった。2010年1月にワシントンが台湾への武器輸出を発表すると、中国は高官レベルの米中安全保障対話をキャンセルし、台湾と関係のある米軍需企業に対する制裁措置の発動という、かつてなく強硬な反応を示した。2010年7月には、黄海での実施が計画されていた米韓合同軍事演習の中止を求めて激しく抗議した。9月には、尖閣諸島周辺海域で日本の海上保安庁の船に衝突してきた漁船の船長を拘束した日本に対して、(船長の釈放を求めて)強硬姿勢をとった。

     2010年10月にノーベル賞委員会が中国の作家で民主活動家の劉暁波(リュウ・シャオボー)にノーベル平和賞を授与すると発表すると、北京は、まるで一連の強硬策の仕上げであるかのように、民主体制をとる諸国全般を批判し、(平和賞の授与主体である)ノルウェーに経済制裁措置をとった。わずか一年足らずの間のこうした行動によって、「平和的台頭」の時代に培われた中国のイメージはすべて覆された。

     当時、専門家の多くは、北京が新たな敵対路線に出たのは、中国が国家として自信を深めている証拠だと解釈した。ジャーナリストのジョン・ポムフレットはワシントン・ポスト紙で、「勝利の陶酔に浸っていること」を北京は行動で現していると指摘した。「台頭によって手に入れた新たなパワーを前に、北京の指導者たちはアジアの流れを形作る影響力を手に入れたと確信している」と。

     この新環境のなか、オバマ政権はアジア諸国との防衛関係を強化し、西太平洋での米海軍のプレゼンスを強化することを主軸とするアジアシフト戦略に新たに着手した。

     (安全保障の鍵を握る「ピボット」としてアジアを重視する)アジアシフト戦略の外交的アウトラインが示されたのは2011年。レオン・パネッタ国防長官は、中国の台頭を懸念する、多くの同盟諸国を対象に「アメリカは今後も長期にわたって太平洋パワーとしてのプレゼンスを維持していく」と保証し、2012年にも「米軍は(アメリカにとって)死活的に重要なアジア・太平洋地域での能力を強化していく」と約束した。攻撃性を強めた中国が秩序を不安定化させることを恐れたホワイトハウスは、弱点があると考えられる地域でのプレゼンスを強化することで、これに対抗しようとした。

     だが、このアメリカの戦略シフトは中国指導層の考えを基本的に読み違えている。

     北京の強硬外交は新たに手に入れたパワーを前提とする自信に派生するものではない(北京の指導者たちは、中国の軍事力はアメリカのそれに比べて、依然として大きく見劣りすることを理解している)。強硬路線は、むしろ、金融危機と社会騒乱に悩まされていることに派生する中国政府の不安に根ざしている。

     経済成長を通じて民衆の政治的支持をあてにできた時代はすでに終わり、しかも中国は経済・社会問題に直面している。シンボリックな対外強硬路線をとることで、北京はますますナショナリスティックになっている大衆をなだめ、政府の政治的正統性をつなぎとめようとしている。

     この観点から中国の行動をとらえれば、アジアシフト戦略がリスクを伴うことは明らかだろう。アメリカの戦略は中国の不安を高め、強硬路線へと駆り立てて地域的な安定を損ない、米中協調の見込みを低下させてしまう。中国のパワーを過大評価して、これまでの外交エンゲージメント政策を放棄するのではなく、ワシントンは中国の基層部分の弱さ、そしてアメリカの強さを認識する必要がある。北京の不安につけ込むのではなく、それを緩和させることで、アメリカのアジア・太平洋地域での利益を守っていく。これが適切な対中政策だろう。

        ◇

     Robert S. Ross アメリカの中国研究者。ボストン・カレッジ教授(政治学)で、ハーバード大学フェアバンク中国研究センターのアソシエート。著作に、『中国の安全保障政策』(Chinese Security Policy: Structure, Power, and Politics)がある。専門は中国の国防政策、ナショナリズム、東アジア安全保障など。

    〈続きはフォーリン・アフェアーズ・リポート11月号〉

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