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何が経済を成長させるのか ―― 政治体制、地勢、資源

2012年11月10日発売号

    ジェフリー・サックス/コロンビア大学教授

    ■経済開発と技術革新

     エコノミストのダーロン・アセモグルと政治学者のジェームズ・ロビンソンは、経済成長を左右するのは政治制度だと言う。二人は、ここで取り上げる『なぜ国は失敗するか』で、経済成長は、彼らの言う「誰もが受け入れる政治制度=inclusive political institution」、つまり、個人の権利を守る多元主義的制度が存在するかどうかに左右されると指摘している。「個人の権利を守る制度があれば、財産権を守り、起業を促すような懐の深い経済制度も整備されていく。そして、長期的には人々の所得は向上し、生活全般が改善していく」と。

     一方、アセモグルとロビンソンの言う「利益を上へと吸い上げる政治制度=extractive political institution」の場合、少数の指導者が権力を独占し、不公正な規制と市場への高い参入障壁を特徴とする、既得権益層ばかりを利する体制が生まれる。一握りのエリートたちを豊かにすることを前提とするこの制度では、その他すべての人々はまともな経済生活ができなくなる。(以下、「誰もが受け入れる政治体制」を「開放的政治制度」、「利益を上へと吸い上げる政治制度」を「抑圧的政治制度」と表記)。

     「財産権を守り、人々の立場を代弁する政府は経済開発を促進できるが、そうでない政府は経済を停滞させ、衰退に追い込む」。これが『なぜ国は失敗するか』が示すテーゼだ。「多くの社会学者は原因を一つに求め、シンプルで広範に適用できる理論を示すのをためらうものだ」と指摘する二人は、この著作で、あえて「単純な理論を示し、フランス革命以降の世界の経済・政治の大きな流れを説明しよう」と試みたと言う。彼らの主張はおよそ次のような理屈で成り立っている。

     経済開発は、産業革命を刺激した蒸気エンジンのような新たな技術革新に依存してきた。技術革新には研究と技術開発だけでなく、技術を広く社会に行き渡らせることが必要になる。技術革新は開発者が自分の研究から利益を手にできると期待できる社会でしか起こりえない。企業が技術革新の恩恵を社会に広げようとするように、利益への渇望が技術の社会的浸透を後押しする。一方、このプロセスを阻む最大の障害が、独裁者に代表される既得権益層の存在だ。独裁者は繁栄する中間層が出現すれば自分の権力が脅かされると懸念し、既存技術を保有する集団も、まだビジネスを続けたいと考えて、新技術の参入を阻もうとする。この二つの集団は(タイプは違っても)同じ既得権益層に属する。

     二人の議論は心地よいし、特に欧米世界の読者は「民主主義と経済的繁栄は不可分の関係にあり、(経済成長を望むのなら)権威主義国家は民主化するしかなく、さもなければ、世界の経済システムから退出せざるを得なくなる」という考えに安らぎを見出すかもしれない。実際、二人は「中国はソビエトと同じ道、同じ運命をたどる」と言う。開放的政治制度への移行を果たす前に、中国は現在の経済的成功を食いつぶすことになる、と。

     だが、このストーリーは少しばかり単純過ぎる。国内政治が経済を成長させたり、成長を抑え込んだりするのは事実だが、その他にも、地政学環境、技術の発見、資源など、成長を左右する要因や変数は数多くある。

     成長を左右するのが政治制度であることを立証しようと短絡的に試みるあまり、アセモグルとロビンソンは、同様に成長を左右する他の数多くの要因を無視している。彼らの理論は、政治と技術革新そして成長の関係を適切にとらえていない。だが最大の問題は、「なぜ特定の国が経済成長を経験しているのに、なぜ他の国はそうではないか」、そして「どの国の経済が成長し、どの国の経済が停滞するかを信頼できる形で予測できないのはなぜか」について適切な説明をしていないことだ。

        ◇

     Jeffrey D. Sachs アースインスティチュート所長で、コロンビア大学経済学教授。開発経済学の第一人者の1人として知られ、この25年にわたって南米、ヨーロッパ、アジア、アフリカ、中東の国家指導者や政府の経済戦略アドバイザーを務めてきた。現在、国連事務総長のアドバイザーも務めている。

    〈続きはフォーリン・アフェアーズ・リポート11月号〉

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