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独立を求めるスコットランドの真意は

2012年11月10日発売号

    チャールズ・キング/ジョージタウン大学教授

    ■イギリスのスコットランド問題

     スコットランドの中心都市エディンバラに近い城下町、スターリングの丘にナショナル・ウォレス・モニュメントはある。強風に雲が流されて太陽が顔をのぞかせると、砂岩でできたその塔は黄金色に輝く。その荘厳な姿は、ビクトリア朝時代の建築家の狙い通りに、自由を愛するスコットランドの精神を人々に思い起こさせる。

     ウィリアム・ウォレスは13世紀末、イングランドのエドワード1世に対する反乱を率い、最終的に捕らわれて処刑されたスコットランドの英雄だ。1995年の映画『ブレイブハート』でメル・ギブソンが演じたウォレスと、実際のウォレスのイメージはかなり違っているが、映画をきっかけにこの地に観光客が押し寄せるようになり、イメージが一人歩きするようになった。数年前までは、モニュメントの観光客向け駐車場からギフトショップにいく途中にはメル・ギブソンそっくりのウォレスのレリーフさえ置かれていた。

     スコットランドは他にもナショナリズムをかきたてる「発明品」を数多く持っている。スコットランドといえばキルト(タータンチェックの巻きスカート)とバグパイプというイメージでとらえられるが、詩人ウォルター・スコットやビクトリア女王同様にイメージが一人歩きしている部分もある。タータンチェックの模様は先祖伝来のもので家族ごとに異なるといわれるのも、スコットランド産ウールを売り込むために作られた創作だ。バグパイプのバンドが組織されたのは、イギリスの歩兵の足並みを揃えさせるためだった。赤毛でワイルドな姿をしている毛長牛ハイランドカウも、19世紀の牛飼いたちがおもしろがって交配させた結果にすぎない。

     しかしスコットランドのナショナリズムは今も健在だ。ウォレスの時代以降、いまやナショナリズムはもっとも大きな高まりをみせ、イギリスにおけるスコットランドの地位の行方に大きな関心が集まっている。スコットランドの分離独立はいまやイギリス政治におけるもっとも重大な懸案とみなされ、ヨーロッパでも大きな注目を集めている。

     スコットランドは1997年の住民投票で独自の行政府を持つことを選択し、2014年末までに独立を問う住民投票実施に向けた計画が進められてきた(すでに住民投票の実施について、スコットランドはイギリス政府の合意を取り付けている)。

     スコットランド議会の多数派であるスコットランド民族党(SNP)は、イギリスからの分離独立を明確に政治目標に掲げている。

     ただし現代のスコットランドのナショナリストたちは、歴史的な遺産やマイノリティーの権利に基づいて独立を主張しているのではなく、「スコットランド人の政治的・社会的価値観はイングランド、ウェールズ、北アイルランドのそれとは異なる」という理由で独立を模索している。

     アレックス・サモンド行政府首相も「独立自体が目的ではなく、スコットランド経済がより力強く持続的に成長し、国際社会の責任ある一員として正当な地位を獲得し、市民がそのポテンシャルを最大限に発揮する手段として独立を訴えていく」と発言している。住民投票の法的位置付けもまだ固まっていない。だが、イギリス議会(ウェストミンスター議会)の保守党、自由民主党、労働党は、投票実施を断念するようスコットランドを説得するのはほぼ不可能だとみている。

     もっとも、世論調査によれば、実際に住民投票が実施されても分離・独立派が勝利する可能性は低い。既にこの15年間でスコットランドが独自の権限で意思決定できる領域は大幅に拡大しており、それを一層拡大させる「高度な地方分権」を得られるなら、人々はそれで満足なのかもしれない。

     それでもサモンド率いるSNPの台頭は、イギリス政界に予想外の衝撃を与えている。住民投票の結果は、統治と主権という根本的な問題を取り扱った先例として、ヨーロッパ全体にも影響を与えることになるかもしれない。

     民族自決という概念にフィットするのはどのような民族集団なのか。特に、マイノリティーの権利としてではなく、「自分たちのやりたいようにしたい」という単純な欲求だけで独立できるのか。また分離独立を回避したいイギリスの民主的体制にとって、軍事介入が選択肢にならない以上、どのような方策をとれるのか。

     スコットランドの未来はイギリスという国家枠組みを維持できるかどうかを左右するだけではない。巧妙な地方政党が、老害が目立つ中央政府と野党の無能さにつけ込んで、いつの間にか正常に機能している国を解体に追い込みかねない事例になる恐れもある。

        ◇

     Charles King ジョージタウン大学教授(国際関係論、政治学)で、ウッドロー・ウィルソンセンターのフェロー。専門は東ヨーロッパ、ナショナリズム、民族紛争など。

    〈続きはフォーリン・アフェアーズ・リポート11月号〉

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