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「機会の平等」なきアメリカ

2013年1月10日発売号

    レーン・ケンウォーシー/アリゾナ大学教授

    ■機会の不平等

     民主党と共和党の異なる立場があからさまに衝突した2012年の米大統領選挙でも、こと機会の平等という価値を重視することに関しては、バラク・オバマとミット・ロムニーの足並みに乱れはなかった。「あなたが誰で、見かけがどのようで、どこからやってきたか、そして何を大切にしているかに関係なく、ここアメリカでは、努力さえすればやっていける」とオバマは8月にシカゴで語っている。彼はその後も、1960年代以降、アメリカの機会均等法の中核であるアファーマティブ・アクション(積極的差別是正措置)を州立大学で維持するようにと最高裁に促している。

     共和党の副大統領候補だったポール・ライアンも、「われわれは結果の平等ではなく、機会の平等を約束する」と表明し、ロムニーも、「(アメリカをヨーロッパ流の福祉国家にしたがっているオバマとは違って)私はアメリカが自由で繁栄する機会の国であり続けることを重視する」と発言している。

     民主・共和両党の候補がともに機会の平等をキャンペーンで重視したのは偶然ではない。(すべての人が同じスタートラインにつくことを保証する)機会の平等という概念は、アメリカン・スピリットの中核概念だからだ。

     実際アメリカ社会のこの半世紀における成功とは、性別や人種にかかわらず、誰でも同じ機会を得られるように社会を進化させてきたことだ。いまや女性のほうが男性よりも大学を卒業できる可能性は高く、雇用や所得面でも男性に追いつきつつある。これに比べればやや見劣りするとはいえ、白人と非白人間のギャップも小さくなった。

     だが一方で、新たな不平等が生じている。性別と人種が社会生活の大きな障害になることはなくなったが、家庭環境の違いが機会の平等を左右する障害として再浮上してきている。貧困家庭に生まれた人々は、そうでない人に比べて機会に恵まれない傾向がある。

     もちろん、機会のあるなしを計測する完璧な方法はない。もっとも信頼できるのは、大学教育、雇用、所得といった「結果」に注目する方法だ。「特定グループの平均所得が他のグループの平均所得を大幅に上回ったとすれば、そのグループはより大きな機会に恵まれたことを意味する」と社会科学の研究者は考えるものだ。もちろん、所得の格差が「どのくらいの努力をしたか」に左右される場合もあり、結果に注目するやり方が絶対とは言えない。しかし、努力するかどうかも、その人物の家庭環境に左右されるようだ。

     社会科学の専門家たちは、家庭環境の異なる人々が機会の平等を得たかどうかを検証する場合、子供の所得レベルが親の所得レベルからどのように変化したかという側面、つまり、世代間社会移動に注目する。だが、そうした世代間所得の変化を判断する指標、どの程度の時間をかけてどのような理由で変化が起きたかに関する情報を得るのは難しい。

     こうしたデータを得るには非常に厄介な調査が必要になる。まず調査対象者の所得と生活環境に関するさまざまな情報を集め、同じことをその子供、孫、ひ孫を対象に続けなければならない。この種の調査でアメリカではもっとも信頼されている「所得動態に関するパネル調査(Panel Study of Income Dynamics)」も、1960年代以降のデータしかない。

     それでも、基本的なポイントについて、専門家の意見はおおむね一致している。第1に、1960年代半ばから1980年代半ばという時間枠でみると、PSIDで5つに区分されている所得グループにおける下層集団の家庭に生まれた人々で、成人期に中間レベル集団、あるいはそれ以上のレベルの所得を得ている可能性はおよそ30%。他方、所得5グループのトップ集団の家庭に生まれた人物で、成人後に中間層集団かそれ以上のレベルの所得を得ている確率はほぼ80%。このギャップが、家庭環境によってかなりの機会の不平等が生じていることを物語っている。

     第2に、機会の不平等がこの数十年で拡大している。データがすべてではないが、入手可能なテストの点数、学歴、職業、そして親と子供の所得データをみる限り、1970年代に縮小した機会をめぐる格差が、ここにきて拡大している。

     第3に、歴史的なトレンドに反して、現在のアメリカは、機会の平等という側面で他の富裕国と比べて見劣りしている。豊かさではアメリカとほぼ同じレベルにある民主国家10カ国のデータをみると、オーストラリア、カナダ、デンマーク、フィンランド、ドイツ、ノルウェー、スウェーデン、イギリスと比べて、アメリカは世代間の変化(世代間社会移動)に乏しく、フランスやイタリアと同じレベルにある。

     なぜアメリカはこうなったのか。どうすればこの問題を是正できるのか。右派は家族の価値をもっと重視することを求め、左派は所得格差の是正を求めている。そしてどちらも教育の改善を主張している。どの対策がもっともうまくいくかを検証すれば、何が機会の不平等を引き起こしているか、その原因も特定しやすくなるはずだ。

        ◇

     Lane Kenworthy アリゾナ大学教授(社会学・政治学)。生活レベル、貧困、不平等、雇用、経済成長、経済政策の違いがどのような事態を招き入れるか、その因果関係をテーマに研究している。

    〈続きはフォーリン・アフェアーズ・リポート1月号〉

    (C) Copyright 2012 by the Council on Foreign Relations, Inc., and Foreign Affairs, Japan

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