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スー・ミ・テリー/元米中央情報局(CIA)上席分析官

■統一のリスクと恩恵

 北朝鮮を建国し、支配した金日成がこの世を去った1994年、専門家の多くは「北朝鮮は建国の父の死とともに崩壊する」と予測したものだ。もちろん、そうはならなかった。彼の息子である金正日は、2011年に死亡するまで、北朝鮮の体制を何とか維持した。その息子である金正恩が父の後を継いでこの国の支配者になったときも、多くの朝鮮半島問題の専門家が北朝鮮の崩壊を予測したが、これまでのところその予測は現実になっていない。極端な貧困のなかにあるとはいえ、北朝鮮はいまも存続し、韓国に大きな脅威を与え続けている。

 だが、北朝鮮の体制には裂け目が生じている。2013年12月、金正恩は自分の義理の叔父で、北朝鮮における事実上のナンバー2だった張成沢を公開処刑にするという異例の措置をとった。

 処刑は金正恩の支配体制を短期的には強化するかもしれないが、長期的には反動が生じる。北朝鮮のエリートたちは、31歳の権力後継者はあまりに短気すぎて信頼できないと考えるようになるはずだ。

 北朝鮮の体制を支える事実上のパトロンである中国も、北朝鮮のナンバー2が処刑されるという事態に不安を感じている。張成沢は北京にとって北朝鮮の窓口の役割を果たし、中国流の改革の導入を支持してきた人物だった。

 とはいえ、近い将来に、中国が平壌に大きな圧力をかけそうな気配はない。北京の指導者たちは現在の平壌の体制を快く思っていないかもしれないが、体制崩壊というシナリオはもっと厄介な帰結を伴うと考えているからだ。北朝鮮の崩壊は大規模な難民を中国国境へと向かわせるだけでなく、アメリカの軍事介入に道を開き、韓国とアメリカの軍事力が中国国境近くに配備される事態になりかねないと懸念している。こうして、とりあえず金正恩体制を支えるのが、もっとも無難な策とみている。

 一方ソウルも中国と似たような理由から、伝統的に平壌を不安定化させかねない行動を控えてきた。韓国の指導者にとって、朝鮮半島の統一に伴う社会・財政上の巨大な重荷(統一コスト)を引き受けるよりは、小規模な攻撃や戦争の脅威を現実として受け入れるほうがましな選択に思えたからだ。

 北朝鮮の衰退に派生する余波を中韓ほど心配しなくても済むアメリカと日本も、結局は平壌の体制と現状を事実上受け入れてきた。ビル・クリントンとジョージ・W・ブッシュという2人の米大統領は、平壌が核開発プログラムを一部制限することの見返りに、支援を提供する外交戦略をとってきた。1994年の枠組み合意の一環として、北朝鮮に軽水炉2基を建設する資金として10億ドルを提供することに合意し、食糧支援を提供することも約束した。ワシントンと東京の政策決定者は、北朝鮮の体制を倒す手段が少数ながらも存在することを認識しつつも、むしろ、体制崩壊によって地域秩序がカオスに陥っていくことを警戒した。

 たしかに、こうした懸念は間違っていない。すべての外部パワーは、もはや避けようのない北朝鮮の崩壊に備える対応計画において、そうした余波を間違いなく想定しておく必要がある。最善の環境で統一が実現したとしても、南北間の経済、教育レベルに大きな格差があり、イデオロギー的にも隔たりがある以上、朝鮮半島の統一はドイツ統一以上にコストがかかり、多くの課題を伴うだろう。

 だからといって、半島の統一を回避すべきだと考えるのは間違っている。一般に考えられているのとは逆に、統一コストが韓国を押しつぶすわけでも、アメリカ、中国、日本に受け入れ難いリスクを作り出すわけでもない。むしろ、統一は朝鮮半島と近隣地域に非常に大きな経済・社会的な恩恵をもたらす。北朝鮮国家の長いストーリーをハッピーエンドで終わらせるには、民主的な統一国家を半島に誕生させるしかない。半島の統一に向けて、関係諸国はあらゆる手を尽くすべきだろう。

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Sue Mi Terry コロンビア大学東アジア研究所・シニアリサーチフェロー。米中央情報局(CIA)上席分析官、国家安全保障会議(NSC)ディレクター、米外交問題評議会ナショナル・インテリジェンス・フェローを経て現職。専門は朝鮮半島、日本など。

〈続きはフォーリン・アフェアーズ・リポート7月号〉

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