東アジア地域で歴史教育を抜本的に変えようとしているのが韓国だ。日本や中国との間で歴史問題が頻発したことをきっかけに、歴史教育を強化する一方で、これまで「自国中心すぎる」という批判のあった韓国史の教育を全面的に見直す。
2月に発表され、09年から順次実施される新しい教育課程では、中学生や高校生にとって必修だった「国史」(韓国史)は「歴史」という名に変わり、科目としても独立する。別々の教科書に収まっていた韓国史と世界史の内容が統合される。教育人的資源省で新課程づくりに携わった具蘭憙(ク・ナンヒ)教育研究官は「世界史の流れの中で韓国史を理解できるようにする。これまで切り離していたのは不正常だった」と説明する。
高校の選択科目に新たに「東アジア史」をつくることも画期的だ。具教育研究官は「東アジアの人々が、緊密な交流によって共通の文化遺産を作りあげてきたことが理解できる内容を目指す」という。ドイツとフランスが進めた共通の歴史教科書作りが参考にされた。
韓国政府が改革に着手したのは05年。日本の歴史教科書問題に加え、中国との間でも古代国家の高句麗を巡る論争が起こり、自国の歴史教育に力を入れる必要に迫られたのが発端だった。高校の「歴史」の授業時間は、「国史」より1コマ多い週3コマとなる。
韓国政府が昨年9月に実施した世論調査では、国民の92%が「日本、中国の歴史問題に中長期的に対応するためには小・中・高校での歴史教育を強化すべきだ」と考えていることが分かった。また、「歴史教育の強化で国民の共同体意識が高められる」と考えている人も88%に上る。
歴史教育の強化と同時に「国粋主義の克服」も目指したのは、「日本の教科書問題を提起した際に、自分たちの歴史教育も見直すことになったからだ」(具教育研究官)という。だが、教科書の内容づくりはこれからで、どこまで実現するかはまだ見えていない。
また、「国史」教科書は、政府が著作権を持つ国定の1種類しかなかった。政府は一連の改革とあわせて検定化する案を明らかにしたが、「偏向した内容の教科書が出るおそれがある」との反対意見もあり、最終的な方針は決まっていない。
韓国では今、歴史教育の改革をめぐり民間レベルでも様々な動きが出ている。根本的な改革を唱えているのが、李明熙(イ・ミョンヒ)・公州大学副教授たちのグループだ。現政権や歴史学界に強い民族主義、民衆中心史観を批判し、新しい教科書をつくる運動を展開している。
李副教授は、今の教科書の問題点として、韓国の経済発展に対する評価が低いことや北朝鮮への親近感が強いことを挙げる。「教科書は特定の価値観を教えるのではなく、歴史的な事実の究明に重点をおくべきだ」と語る。
(吉沢龍彦、桜井泉)
キーワード:高句麗をめぐる歴史認識問題
高句麗とは、紀元前1世紀から668年まで朝鮮半島から中国の東北地方にまたがる地域に存在した古代国家。中国政府の研究機関が02年から始めた研究プロジェクト「東北工程」で、高句麗を中国の地方政権と位置づける動きが報じられると、高句麗を朝鮮民族の歴史とする韓国が強く反発した。中国が単独で高句麗遺跡を世界遺産に登録申請したことや、朝鮮民族の聖地とされる白頭山(中国名、長白山)の観光開発などもからみ、中韓間での歴史問題となっている。