中国で最も広く使われている人民教育出版社の歴史教科書「中国歴史 8年級」では、満州事変は「中華民族の抗日戦争」という単元の冒頭で取り上げている。ここから中国人民による「抗日戦争」が始まったという位置づけだ。
これは学習指導要領にあたる「歴史課程標準」に忠実に沿った内容となっているからだ。中国では満州事変は「九・一八事変」と呼ばれており、課程標準では「九・一八事変(柳条湖事件)の史実を略述し、九・一八事変以降、中国では局部的に抗戦が始まったことを知る」よう求めている。
教科書では「忘れてはならない九・一八事変」という題で1ページ半ほどがあてられ、最初の部分で次のように書かれている。
《日本侵略軍は計画的に柳条湖事件を引き起こしておきながら、中国軍が鉄道を破壊したと言いがかりをつけ、これを口実として、中国東北軍が駐留していた北大営に進攻し、瀋陽城を砲撃した。九・一八事変が勃発(ぼっぱつ)したのである》
日本の教科書が、満州事変に至る国際情勢を丁寧に説明しているのに対し、中国の教科書はそうした記述は一切ない。重点を置いているのは(1)日本側の謀略についての詳しい説明(2)蒋介石が東北軍に抵抗しないよう命じたため東北部が占領された点、の2点である。
また、「満州国」は中国では「偽満州国」と呼ばれており、日本による「満州国」の建国について次のように説明している。
《東北部が陥落した後、1932年に日本はすでに退位していた清朝最後の皇帝溥儀を擁立し、長春で偽満州国傀儡政権(かいらいせいけん)を打ち立て、東北部を中国から分裂させようとした。日本侵略者の蹄鉄(ていてつ)の下、東北部の三千万の同胞は屈辱的な亡国奴生活を送ったのである》
(佐藤和雄)