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中東ウォッチ

エジプトの中国ブーム

2006年11月30日

編集委員・川上泰徳

 11月下旬にエジプトに出張した。カイロの道を歩いていると、エジプト人からよく声をかけられる。それも必ず「ニーハオ」である。「ニーハオ」と返事をするのも変だから、分からないふりをして通り過ぎるか、アラビア語で「アッサラム・アレイクム(あなたに平穏を)」と挨拶する。挨拶を返せば、相手は「ニーハオ」が通じた、やっぱり中国人だと思って喜ぶのかもしれない。エジプトはこのところ中国ブームである。

 中国製品が町にあふれている。衣料品から日用品、雑貨など、手に取れば中国製である。10年ほど前を考えれば、中国品は飛躍的に品質が向上している。カイロの繁華街では、やたらと靴屋がめだつのだが、履きやすそうな安いスニーカーを手に取るとほとんど中国製。エジプト人の平均月給を超えるような外国ブランドの革製の高級スニーカーも、裏を見れば「メイドイン・チャイナ」である。

 エジプト人の友人が、「ラマダン・ランタンまで中国製になった」と語った。ラマダンはイスラム教の断食月で、今年は9月下旬から約1カ月続いた。エジプトではラマダンの間、真鍮製の縁に、色ガラスをはめ込んだカラフルなランタンを商店の軒先に釣り下げたり、入り口に立てたりする。ラマダンはイスラム世界共通だが、ランタンを飾るのはエジプトだけのようだ。クリスマス・ツリーや門松のような感覚かもしれない。そのランタンが中国製となったというのだ。エジプトだけで需要がある、それも期間限定のものまで中国から入っているとは、中国製品の浸透力には恐れ入る。さらに日本の100円ショップに似た「2ポンド半(約50円)ショップ」という店が次々オープンして、そこに並んでいるのはほとんどが中国雑貨だという話しも聞いた。

 カイロのにぎやかなコンピューター・ショップで若いビジネスマンが開いた店は、「自社デザイン・独自ブランド」を売っていた。マイク付きヘッドフォーンが300円程度で、自前のステッカーがついている。売りは、コードがビニールコードむき出しではなく、布紐になっている。なかなか温かみがある。すべての製品は、自分たちでデザインし、中国の工場に作らせているという。中国製のラマダン・ランタンもエジプト人のビジネスマンが「新製品」を考案して、中国に発注したものかもしれない。

 日本製品はあくまで国際的な最高水準を追求する。カイロに来ているソニーも欧米で売られているソニーも基本的にソニーであることに変わりはないが、中国製品のなかには「ラマダン・ランタン」のように現地のニーズにきめ細かく応えているものがある。アラビア語と英語など外国語の電子辞書や一日5回のイスラム教のお祈りの時間を知らせる「礼拝時計」などが、その例だ。日本や欧州のメーカーの工場として、様々な注文やデザインに応えながらノウハウを蓄えてきた中国にとっては、外国から求められたニーズに応えるという柔軟さが異文化へ食い込んでいく強みとなり、より直接的な関係をつくっている。

 浸透力と言えば、1週間ほどのカイロ滞在の間に、何人ものエジプト人から「中国人行商人」の話をきいた。中国人女性が夜遅く、大きな鞄を担いで、「何か中国製品いらないか」と片言のアラビア語を話して家に訪ねてくる。鞄を開いて、中国製品の行商をしているという。中国の雑貨や衣類などだ。町でアジア人を見ること自体、それほど多くないのだから、中国人の行商人がドアをノックして訪問販売にくるというのは、エジプト人にとっては驚くべきことだろう。

 10月、11月と、エジプトの新聞やテレビでも、中国は大きな焦点だった。ムバラク大統領が11月初めに北京でひらかれた「中国・アフリカ協力フォーラム北京サミット」に参加するために訪中したためだ。サミットではアフリカの40あまりの国の元首や政府首脳がこれに出席した。カイロで買ったアルアハリーという野党系紙にサミットに参加したジャーナリストによる1ページの報告が出ていた。大きな横見出しは「米国の世紀の終わりと中国の台頭」とある。「米国の共和党政権がイラク政策の失敗の批判を受けて選挙で敗北したことは、米国が唯一の超大国の地位から転落する予兆であり、中国に対して2番目の超大国になる貴重なチャンスを与えている」と書いている。

 カイロ大学のアジア研究所は今年、「中国の台頭」という論文集を出版したが、最後に収録された「21世紀のアラブ・中国の協力」という論文に、次のような記述があった。

「この数年、特に2001年9月の米同時多発テロ事件の後、欧米諸国がアラブ諸国に対して治安対策を強化し始めてから、アラブ世界は中国に対して投資を始め、中国もアラブ世界とのビジネスを増やし、経済的、商業的に関係は飛躍的に発展し、多様化した。さらに両者の協力関係は軍事部門でも強化された。アラブ側は中国から軍事製品を輸入し、中国でアラブ人が軍事技術的な教育・研修を受け、中国がアラブ諸国での軍事関連工場の建設支援を行った」

 単に中国と中東・アラブ世界との関係が、中国製品の輸入が増えているだけでなく、国際環境を反映し、アラブ側の必要に合致したものであることが分かる。サウジアラビアのアブドラ国王が今年1月に最初の訪問国として選んだのも中国だった。中東での中国の台頭は、中国からヒトとモノがくる、大挙してくるだけではなく、中東側の「ルック・イースト」の機運が追い風となっている。


プロフィール

川上 泰徳(かわかみ・やすのり)
 朝日新聞編集委員。長崎県生まれ。大阪外語大アラビア語卒。高知、横浜両支局、学芸部、外報部を経て、94年から98年まで中東アフリカ総局(カイロ)に駐在。2001年春から02年秋までエルサレム支局長、その後、カイロに移り、中東アフリカ総局長。03年秋からバグダッド支局長を兼務。今年4月から現職。著書に『イラク零年』(朝日新聞社)。パレスチナ報道で、02年度ボーン・上田記念国際記者賞。

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