長引く米大統領選の民主党候補者指名レース。政策には大差のないヒラリー・クリントン上院議員とオバマ上院議員だが、話し方や演説の印象はかなり違う。クリントン氏の話術が「わざとらしい」と言われ、オバマ氏の演説は「具体性に欠ける」と批判されながらも好評なのはなぜか。選挙戦の行方を左右しかねない「しゃべり癖」を研究してみた。
4月上旬、人気トーク番組にクリントン氏が登場して言った。「ここに来られてよかった。狙撃にさらされて、身動きがとれなかったから」
会場からは笑いが起こった。彼女自身の96年のボスニア訪問の模様を「狙撃をかいくぐって着陸して……」と振り返ったのが全くのウソと問題になっていたからだ。
釈明のため番組に出たのは見え見えだが、「これは単なる言葉と行動の不一致で」「うっかり間違えました」と言うくだりで「you know」を3回も繰り返し、いかにも自然な雰囲気を演出。それでも、わざとらしさが透けてしまった。世論調査で5割近い「ヒラリー嫌い」を生む一因だろう。
クリントン氏は演説や討論でも「you know」「well」といった言葉を口にする。日本語なら「ええっと」「あのう」くらいのつなぎ語だが、多用すると耳障り。話の間を埋め、考える時間をとっているのか。
タフな姿勢を示しすぎることもある。激しかったのは2月、オバマ氏の広告ビラの内容が「事実に反する」とかみついた時。ビラを掲げて、「バラク・オバマ、恥を知れ(Shame on you)」と言い放った。
言葉の端々に時々、嫌みな感じもつきまとう。アイオワ州で昨年12月、相手を攻撃するネガティブ・キャンペーンに踏み切った時は「さあ、お楽しみはこれからよ(Well、the fun part starts)」。印象はあまりよくなかった。
一方、オバマ氏はその「演説力」が評価されている。人気の大部分を演説の技に負っていると言っても過言ではない。
技の第一は、間を取った話し方。次々と政策を繰り出すクリントン氏に対し、オバマ氏はゆっくりと自分の人生や理想を語る。しばらく沈黙することも珍しくない。盛り上がる部分ではリズムを速めているから、計算された話法であることは明らかだ。
第二は対照や繰り返しといったレトリック。「米国の最良の学校と、世界の最貧の国々」などと対照させるのはお手のもの。「私たちは約束されたAを」「約束されたBを」「約束されたCを」と3回繰り返したりもする。
第三は主語に「We(私たちは)」を多用することだ。ハーバード大学のジェームズ・エンガル教授は「ジョン・F・ケネディ元大統領も『we』や『us』が多かった」と過去のカリスマ大統領との類似性を指摘する。オバマ氏の聴衆は「Yes we can(私たちはできる)」と声を合わせるのが常で、それが聴衆をひとつにする。具体性に欠ける内容も、一体感を得やすい理由となる。
これに対し、自らのリーダーシップを重視するクリントン氏は「I(私は)」を主語にして語る。オバマ氏の支持者が「Yes we can」と叫ぶ場面で、彼女の支持者は「Yes she can(彼女はできる)」。クリントン氏は「I(私は)」と責任を持って言うだけあって、政策の細かい内容に踏み込む。一方で、私は、私は、と繰り返す演説に感情的な反発を感じる向きもある。
ベイラー大学のマーティン・メドハースト教授は「オバマ氏は非常に高いレベルの抽象的な演説をする。その内容は、原則と目標だ。クリントン氏は政策と計画を明確な言葉で語る」と分析。バンダービルト大学のバネッサ・ビーズリー准教授は「オバマ陣営がクリントン陣営よりうまいのは、『Yes we can』などのサウンド・バイト(テレビで引用される端的な表現)だ」と指摘する。
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大統領選担当記者として何度も両氏の演説を間近で見てきた。現場で気付いたのは、2人の動きの違いだ。オバマ氏はポケットに手を突っ込み、肩ひじ張らない自然な雰囲気を醸し出す。クリントン氏は大きく腕を横に広げながら語り、偉大な大統領らしさをアピールしている。どちらを選ぶかは人の好みだが、どちらも計算に基づいた動きであることは間違いない。(ワシントン=小村田義之)
■オバマ氏が多用してきた「三つの決めゼリフ」
(1)Change
Our time for change has come.
「私たちの変化の時が来た」
(2)Hope
We are choosing hope over fear.
「私たちは恐怖(の政治)より希望を選ぼうとしている」
(3)Yes we can.
Don’t tell me we can’t change. Yes, we can. Yes, we can change. Yes, we can.
「変化できない、なんて言わないで。私たちはできる。私たちは変化できるんだ。私たちはできる」
■クリントン氏の演説の落差
【やさしい時】2月21日、テキサス州で
I am honored to be here with Barack Obama. I am absolutely honored.
「バラク・オバマとここで同席できて光栄です。私はものすごく光栄に思っています」
【きつい時】2月23日、オハイオ州で
Shame on you, Barack Obama. Meet me in Ohio. Let’s have debate about your tactics and your behavior in this campaign.
「バラク・オバマ、恥を知れ。オハイオで私の前に顔を出しなさい。あなたの策略とこの選挙戦での振る舞いについて話をするのよ」