2008年1月30日
キング牧師記念日の集会で、オバマ氏を応援するカードを持って最前列に陣取る黒人有権者ら=21日、サウスカロライナ州コロンビアで
今年の米大統領選にさっそうと登場したアフリカ系(黒人)の政治家が、米国の人種問題を改めて浮かび上がらせている。オバマ上院議員が黒人票の8割を得て圧勝したサウスカロライナ州民主党予備選では、有権者は肌の色だけを理由にオバマ氏に投票したわけではなかった。長い差別の歴史と記憶、今も人々をさいなむ人種間格差に、あきらめと希望が絡み合う。「初の黒人大統領」を待ち望む心は、幾重にも層を成している。
■「変化」の願い、切実 教育・保険…人種間格差なお
答えは、すべて「オバマ」だった。
サウスカロライナ州で民主党予備選があった26日、州都コロンビア市内の投票所で声をかけた十数人の黒人有権者は、みな同じ名を口にした。
レイ・フェルダーさん(34)は、勤めていたスピーカー製造工場がメキシコに移転し、失職した。「私のように大学を出ていなくても、いい仕事に就きたい。彼はきっと変えてくれる」
「景気を良くして」「医療費が高すぎる」「仕事が欲しい」。オバマ氏に投票した黒人らの言葉は、生活苦をそのまま反映していた。
06年の調査によると、同州の貧困層以下の住民は、白人の10%に対し、黒人は30%近く。黒人世帯の平均年収は白人世帯のほぼ半分の2万6500ドル(280万円)。人種間格差は今も厳然と存在し、基本状況は全米レベルでも変わらない。医療保険の未加入率は高く、犯罪受刑者も人種比率に比して多い。
だが、「最も大きな問題は絶望感だ」と、黒人支援団体アーバンリーグのマクロウホーン同州支部長は指摘する。「教育水準の低さが貧困を招く悪循環で、多くの黒人が希望を失っている」
今の生活苦を「チェンジ」したい。オバマ氏が演説でうたい上げる「変化」の理念は、黒人有権者の切実な願いと完全に重なり合っていた。
■期待、でも「勝ち抜けぬ」 差別体験 染みつく負の記憶
だが、黒人の思いは、屈託なくオバマ氏へ向かったわけではない。
「黒人がオバマを支持してもいいんだよ。さあ、リラックスして」
そんな社説が同州最大のステート紙に掲載されたのは1月中旬だった。
「ある種の自尊心の低さや敗北主義により、素直に黒人候補を支持できない気持ちがある」と社説を書いたウォレン・ボルトン記者は言う。
本当に黒人がホワイトハウスの主になることがありうるのか。長い差別の歴史や、現在の人種間格差がそう疑わせてしまう、というのだ。
かつて奴隷貿易が盛んに行われ、南北戦争発端の地でもある同州は、黒人差別と人種隔離の歴史を体現してきた。今を生きる黒人にも負の記憶が染みついている。
「まるで私は二重人格のよう」。大西洋岸の都市チャールストンのルシール・シモンズさん(79)は、今回の予備選への思いをそう形容した。
「初めての黒人大統領を見たい。でも、オバマ氏は本選挙で勝てるはずがない。全米の有権者が人種に寛容とは、どうしても思えない」
若い頃、大学入学を拒まれた経験がある。黒人の学生だけで集会をしたら、翌日、焼け焦げた十字架を送りつけられた。
「彼を殺してしまうことになるかもしれない。黒人の大統領を受け入れない米国人は絶対にいる」。同市で黒人史跡を巡るバスガイドをするアルフォンソ・ブラウンさん(62)は、オバマ氏が暗殺されはしないか、と恐れる。
そんな不安を持つ黒人有権者は、決して少なくはない。CNNの世論調査で「米国は黒人大統領を持つ準備があるか」の質問にイエスと答えた黒人は61%で、白人より10ポイント以上も少なかった。
■「勝てる候補」意識変化 「誇りであり、チャンスだ」
全米が対象の世論調査で、黒人の支持がオバマ氏へ向けて雪崩を打ったのは1月中旬からだった。昨年10月の調査から26ポイント上積みして59%となり、ヒラリー・クリントン上院議員を逆転した。
「住民の9割以上が白人のアイオワ州で勝利して初めて、黒人有権者はオバマ氏を『勝てる候補』だと思えるようになった」。サウスカロライナ州シタデル大学のマーカス・コックス教授は、そう分析する。
黒人公民権運動の指導者、故マーチン・ルーサー・キング牧師をたたえる記念日の21日、コロンビアで全米有色人地位向上協会(NAACP)の集会があった。「人種の違いを政争の具にしようとする動きがある。キング牧師が訴えたのは統一だ」。人種を超えた「一つの米国」を訴えるオバマ氏を、1万人を超す黒人の聴衆たちが熱狂的に迎えた。
その広場の隅に、集会に反対する白人の一団がいた。南北戦争の際に奴隷制維持を主張した「南部連合」の旗を掲げるグループの一人は、こう言った。「NAACPは、(肌の色で)米国を分断しようとしている。それこそ人種差別だ」
同州予備選の出口調査によると、オバマ氏は黒人の78%、白人の24%の票を獲得した。だが、それは白人の76%がクリントン、エドワーズ両白人候補に投票したことも意味する。
今後の選挙戦を通じて、人種間の裂け目が姿を現すのか。それとも「一つの米国」というオバマ氏が説く理想に米国は近づくのか。
肌の色が同じだからオバマ氏を支持するのでは決してない――。話を聞いた黒人有権者たちはみな口をそろえる。
「誰を支持するかは、人種とは関係ない」
国立公園で黒人の歴史遺産を管理するマイク・アレンさん(47)も、そう強調したあとで、「人種」から距離を置ききれない本音を漏らした。
「でも、黒人から見れば、オバマ氏は誇りであり、希望であり、チャンスなんです」
◇
◆ケネディ家の威光、健在 クリントン氏の批判に強い憤り
「新しい世代の指導者を迎える時が再びめぐってきた」。講堂を埋め尽くした大学生を前に、エドワード・ケネディ米上院議員は兄の故ケネディ大統領を振り返ってこう語り「今度はバラク・オバマの番だ」と続けた。
米大統領選指名レースの大きな節目、「スーパーチューズデー」を8日後に控えた28日、米民主党の重鎮ケネディ氏は息子で下院議員のパトリック氏、めいに当たる元大統領の娘のキャロラインさんとともに、オバマ上院議員がワシントン市内の大学で開いた集会に出て支持を表明した。
ケネディ上院議員の知名度と政治的影響力は民主党内でも随一で、同党の立候補予定者はいずれも支持を求めてきた。しかし今回は、オバマ氏とヒラリー・クリントン上院議員が激しい接戦を演じているとあって中立を守ると見られてきた。このタイミングであえてオバマ氏支持に踏み切った理由は、同氏への高い評価に加えて、最近のクリントン陣営のオバマ批判に強い憤りを覚えたからだという。
確かに、演説からはそういう思いが見て取れた。クリントン前大統領が「おとぎ話」と切り捨てた、オバマ氏の「イラク戦争反対」については「この真実は誰にも否定させてはならない」。ヒラリー氏がオバマ氏を「経験不足」と批判していることにも「大統領就任初日から職務をこなす準備ができている」。
支持表明の指名レースへの影響に関して、ニューヨーク・タイムズ紙の政治コラムニスト、ブルックス氏ら専門家は「大変なものがある」と口をそろえる。米政界の名門、ケネディ家の威光はなお健在だからだ。
サウスカロライナ州の予備選で大勝し勢いに乗るオバマ陣営だが、決戦の場になるかもしれないスーパーチューズデーの22州についてみれば、全体としてクリントン氏に後れをとっている。特に影響の大きいカリフォルニア、ニューヨークなどでは支持率で2ケタの差をつけられている。
ケネディ一族の支持はこうした形勢の逆転につながるのか。米メディアは28日、ブッシュ大統領が行った一般教書演説よりもよほど強い関心を示したが、肝心な点は読み切れていないようだ。
■米大統領の座をめざした黒人の主な実績■
1968 ディック・グレゴリー(コメディアン、社会活動家)
本選挙で約4万7000票(正式に出馬はせず、投票用紙に名前を書き込んでもらう運動を展開)
1968 エルドリッジ・クリーバー(黒人活動家)
本選挙で約3万7000票
1972 シャーリー・チザム=民主(黒人女性初の米連邦下院議員)
民主党指名候補選びに出馬。計約43万票を獲得したが、勝利した州はなし
1984 ジェシー・ジャクソン=民主(牧師、人権活動家)
民主党指名候補選びに出馬。5州で勝利。代議員約400人を獲得
1988 ジェシー・ジャクソン=民主
13州の予備選・党員集会で勝利。計約660万票、代議員約1200人を獲得し、党指名候補になったデュカキス氏に次ぎ2位
1996 アラン・キーズ=共和(元外交官)
共和党指名候補選びに出馬。計約47万票を獲得
2000 アラン・キーズ=共和
指名候補選びで計約100万票を獲得し、代議員6人を獲得
2004 アル・シャープトン=民主(牧師、人権活動家)
代議員27人を獲得
2004 キャロル・モズリー・ブローン=民主(元上院議員)
初戦のアイオワ党員集会前に撤退
2008 バラク・オバマ=民主
26日までにアイオワ、サウスカロライナ州で勝利。代議員計152人を獲得(CNNの推計)
(CNNなどから)