写真・図版 2月2日、リスクにさらされている女性を守るため安全で効果的、そして市販できるジカウイルスに有効なワクチンを実際に開発するとなると、そう簡単ではない。写真は検査を受ける妊婦。ブラジルのレシフェで1月撮影(2016年 ロイター/Ueslei Marcelino)

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 [ロンドン 2日 ロイター] - 世界は再び、ウイルス性疾患のワクチンを早く開発するよう研究者や製薬会社に求めている。今回の「ジカ熱」について聞いたことのある人は、数週間前までほとんどいなかった。危惧する人はさらに少なかった。

 アメリカ大陸で感染が拡大しているジカウイルスに有効なワクチンを作り出すことは、理論上は不可能ではないはずだ。しかし、リスクにさらされている女性を守るため安全で効果的、そして市販できる製品を実際に開発するとなると、そう簡単ではない。

 そもそも研究者たちがジカ熱について分かっている情報は、昨年に西アフリカで前例のない流行をもたらしたエボラ出血熱よりも少ない。

 エボラ熱はその致死率の高さゆえ、生物テロ研究のテーマとなり、ワクチン開発を急ぐ根拠を与えていた。今回のジカ熱の場合は、他の感染症と比べて情報量の少なさが障害となっている。

 世界最大の付加価値特許データベースであるトムソン・ロイターの「Derwent World Patents Index」によると、エボラ熱への言及は1043回、デング熱は同2551回だった一方、ジカ熱はわずかに30回。

 また同社の調査研究プラットフォーム「Web of Science」に2001年以降に掲載された主要学術論文の数は、エボラ熱が4000本以上あったのに対し、ジカ熱はたったの108本だった。

 それでも、米国立衛生研究所(NIH)、カナダ公衆衛生庁、ブラジルのブタンタン研究所は、ジカ熱に有効なワクチン開発に取り組んでいるほか、バイオ企業数社も開発競争に加わっている。そのなかには、米製薬大手メルク<MRK.N>と共にエボラ熱ワクチンを開発した米ニューリンク・ジェネティクス<NLNK.O>も含まれる。

 そして現在、ワクチンメーカーの「大物」が開発に名乗りを上げたことは大きい。仏サノフィ<SASY.PA>は2日、ジカのワクチン開発計画を立ち上げると発表。その前日には、世界保健機関(WHO)が国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態であると宣言していた。

 カナダの研究者、ゲーリー・コビンガー氏は、試験的なジカワクチンが緊急時に限定的に使われることは、今年後半にも可能となるかもしれないが、規制当局から完全な認可を受けるまでには何年もかかるとの見方を示した。

 また、英レディング大学のウイルス学者ベン・ニューマン氏は、この先に多くの困難が待ち受けているとし、「ジカワクチンが実用的であるためには、効果的で安全な必要があるが、それを両立させるのは難しい」と語った。

 ある製薬会社の研究者によれば、発症しない程度に体内に抗原を入れて免疫を作るのがワクチンだが、ジカ熱に対する正しい免疫反応を評価する簡単な方法がないため、その両立は難しいのだという。

 ジカ熱の症状は軽く、大半の感染者は感染していることに気づかないため、このような潜在患者は予防接種を必要としないかもしれない。

 ワクチンが極めて重要となるのは、妊娠している可能性のある女性だ。ジカ熱と先天的に頭部が小さい「小頭症」との関連が指摘されているからだ。

 <臨床試験>

 こうしたことのすべてが、ワクチン開発と試験を非常に複雑にしている。とりわけ、新薬やワクチンの安全性が他のグループで確立されるまで、妊婦は臨床試験から除外されることが多いのもその大きな要因となっている。

 また、ジカワクチンの市場が先行き不透明で限られる可能性もある。

 サノフィや別の企業がワクチン開発に成功したと仮定しよう。それが、妊娠する前の感染を防ぐため、ジカウイルスを媒介する蚊の生息する地域に暮らす10代の少女にのみ使用される可能性がある。

 「それは優れた公衆衛生のイニシアチブだ。必ずしも商業的なイニシアチブではない。ジカ熱の流行は突然発生し、終息するだろう。よって、ワクチン接種を必要とする人が毎年大勢いるとは限らない」と、ベレンバーグ銀行のアナリスト、アリステア・キャンベル氏は指摘する。

 とはいえ、WHOや他の公衆衛生当局は、世界有数の製薬会社の1つがワクチン開発に従事すると明言していることに胸をなでおろすことだろう。

 英製薬大手グラクソ・スミスクライン<GSK.L>もジカ熱について研究を進めており、同社のワクチン技術が適しているかどうかを確かめるため、実現可能性の検証についての結論を下そうとしているところだと広報担当者は2日語った。

 ワクチン開発は結局、優先度の問題だと言える。それは、過去80年における開発の歴史がウイルスによってムラがあることからも明らかだ。ジカと同じ科のウイルスである黄熱病の最初のワクチンは1938年に開発された。より最近では、日本脳炎とデング熱のワクチン開発に成功している。

 サノフィが開発した最初のデング熱ワクチンは昨年12月に認可されたが、開発に着手してから20年の時を経ている。

 西ナイル熱やチクングンヤ熱など蚊によって媒介される他の感染症のワクチンはまだ開発途中にある。

 ジカ熱の1つの対応策として、デング熱や西ナイル熱のプロトタイプワクチンを採用することが挙げられる。これらをジカウイルスの「プラットフォーム」として使うというものだが、このような方法でさえ容易ではない。

 「ほとんどのウイルスには、多少なりとも効果的なワクチンを作る方法が数多く存在する。だが、最も有効なワクチンというのは、さまざまな方法でウイルスの複数の部分を標的にする」と、前述の英レディング大のウイルス学者、ニューマン氏は説明する。

 複数を標的とすることで免疫システムにより多くの選択肢を与えることになり、より多くの人が免疫を作り出せることを意味する。しかしたいていの場合、ワクチンが効果的に働き過ぎて、その威力が強過ぎると、先天異常を引き起こす可能性がある。

 「それは大きな懸念だ。ただ、現段階でわれわれには全く分からない」とニューマン氏は語った。

 (Kate Kelland記者、Ben Hirschler記者 翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)