写真・図版5月17日、スマートな黒のパンツスーツに身を包み、白いアウディを乗り回すZhao Naさんは、河南省の田舎出身だ。鄭州のショッピングモール大衛城で1月撮影(2019年 ロイター/Yawen Chen)

[PR]

 [鄭州(中国河南省) 17日 ロイター] - スマートな黒のパンツスーツに身を包み、白いアウディを乗り回すZhao Naさんは、河南省の田舎出身だ。

 29歳のZhaoさんは、不動産エージェントだ。買い物が大好きで、ルイヴィトンやプラダのハンドバッグに目がないという。彼女のような派手におカネを使う消費者を目当てに、世界のトップのブランドが5兆ドル(約550兆円)超の中国小売市場に先を争って参入した。

 「お金がある時は、喜んで使ってしまう」と、Zhaoさんは言う。2017年のパリ旅行では、ハンドバッグだけで9000ドル分も購入した。「お金を使うと、ハッピーな気分になれる」

 だが中国経済の減速で、Zhaoさんの事業も頭打ちになり、収入が急減。Zhaoさんも、「ハッピーの源」を控えざるを得なくなった。

 欧州へのショッピング旅行をキャンセルし、鄭州の中心部にあるお気に入りのショッピングモール「大衛城」での散財も控えるようになった。このモールでは、巨大なデジタルスクリーンで、グッチやランコム、エルメネジルド・ゼニアなどの欧州高級ブランドの広告が流されている。

 「好きなようにお金を使えないとイライラするけれど、私にはどうにもできない」と、Zhaoさんは言う。

 <現実直視の機会>

 30年に及ぶ右肩上がりの成長を経た中国の減速は、Zhaoさんのような消費者に、特に切実に受け止められている。人口約1億人の河南省は、内陸部で消費を拡大し、生活水準を引き上げることで経済を改革しようという中国政府の目標にとって鍵となる州だ。

 しかし、河南省全域で数十人の消費者や小売店関係者に取材し、通商データを確認したところ、自動車から家電製品、洋服から化粧品に至るまで、人々が消費を控え始めていることが分かった。

 Zhaoさんのような内陸部の住人が消費を控えることは、すでに米国との貿易戦争の拡大で脅かされている中国の経済成長に、深刻な影を落としかねない。

 世界の小売り事業者にとっても、現実を直視する機会となるだろう。

 イタリア洋服ブランドのエルメネジルド・ゼニアから、米宝飾ブランドのティファニーそして米アップルに至るまで、中国全土で消費者が買い控えに入っていると指摘している。

 15日発表の小売売上高の伸び率は大幅に縮小し、中でも衣類費用が2009年以来10年ぶりの減少となった。

 鄭州のような内陸都市での消費減速は、河南省のような地域に将来的な成長の夢を託していた世界の消費ブランドの夢を挫折させる可能性がある。河南省の経済は、繁栄する沿岸地帯を除けば最大規模だ。

 <変貌した省>

 退屈な省都だった鄭州は近年、輝くスカイラインとおしゃれなモールを誇る大都会へと、目を見張るような大変貌を遂げた。

 人口1000万人の鄭州は、中央アジアや欧州と鉄道でつながっているほか、北京や上海との間にも高速鉄道が走っており、中国が進める巨大経済圏構想「一帯一路」の交通の要衝となっている。

 台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業<2317.TW>のフォックスコンが、ここに23万人が働く巨大工場を構え、iPhone(アイフォーン )を生産している。

 かつて、夢を抱いた若者は、河南省を出てより良い生活を追求するのが普通だった。だが今の鄭州は、もっと稼いで近代的な家を手に入れ、欲しい消費財を買い入れるという中間所得者層の夢を満たすことができる場所になっている。

 Zhaoさんにとって、この街は希望の灯だった。

 河南省の農家の3人きょうだいの末っ子に生まれたZhaoさんは、子供のころから貧しい村を脱出することを考えていた。学校の成績が良かったため、鄭州の大学に進学し、そこで自分が営業職に向いていることを発見した。

 Zhaoさんは不動産デベロッパーに入社し、ブランド物の洋服やハンドバッグで身を固めた富裕層の顧客のために働いた。すぐに、かつて農地だった鄭州新区の高級アパート販売で手数料を稼ぐようになり、彼女自身もこうしたライフスタイルに手が届くようになった。

 Zhaoさんは、ショッピングモール「大衛城」の高級店の常連客となり、車1台と住宅2軒を手に入れた。うち1軒は民泊仲介のエアビーアンドビーで貸しているという。

 不動産販売手数料から来る稼ぎのほかに、Zhaoさんはクレジットカード6枚で借り入れを重ねた。クレジットカードの借り入れだけで総額20万元(約320万円)あり、そのほかに毎月の住宅ローンと車のローンが1万5000元あるという。

 だが昨年、鄭州の不動産市場が減速して販売戸数が急減、彼女の手数料収入も減った。こうして、大衛城での彼女のショッピングライフも終わりを迎えた。

 消費を控えるようになったのは、Zhaoさんだけではない。

 ニールセンによると、鄭州のような地方都市の消費者信頼感指数は、2017年に少なくとも過去9年の最高レベルを記録した後、昨年わずかに減少した。鄭州の小売り売上高の伸びは昨年、この20年で初めて1ケタ台に落ち込んだ。

 鄭州中心部にある2つのモールで米キールズやクリニークなどの化粧品を扱う販売員は、消費者が慎重になっていると話す。

 「以前はもっとたくさん買って、不用意にカネを使う人が多かった」と、大衛城でシャネルやクリスチャン・ディオール、エスティ・ローダーなどの化粧品を扱うセールスマネージャーのLi Mengruさんは言う。「今は支出に慎重になり、きちんと選んで買っている人が多い」

 <イージー・マネー> 

 近年の中国の消費を後押ししたのは、ソーシャルレンディング(P2P融資)やクレジットカードの発行拡大など、新しい金融オプションの急増だった。これにより、それまで手の届かなかった幅広い消費財にも手を出せる人が増えた。

 人口400万人の河南省許昌で牛肉の卸商をしているChai Maofengさん(28)は2016年、自宅アパートにソファセットや冷蔵庫、エアコンやテレビをすべて新品で買いそろえるため、クレジットカードを10枚作った。

 「カードを作るのは簡単だった。銀行は喜んで貸してくれた。必要なのは、会社事務所で働いていることを示す固定電話の番号だけだった」と、Chaiさんは言う。

 だが、経済の減速が自分のビジネスに影響し始めたため、使いたいだけ使う生活をやめざるを得なくなったと彼は話す。汚染産業の取り締まりが強化され、牛肉価格が上昇したことも打撃となった。

 Chaiさんは、2軒目の不動産や新車を買う計画を先送りした。

 「会社から借りているこの車で十分だ」。会社所有の白いバンを指して、Chaiさんは言った。

 <悪化するか>

 中国経済は、国内総生産(GDP)の伸びがアナリストの予測を上回るなど、第1・四半期に回復の兆しを見せた。

 だが、米国との貿易戦争の激化や、工場生産の停滞、中国製品に対する世界需要の減少は、2019年も経済減速が続くことを示唆している、とエコノミストは指摘する。

 中国政府がこの数年、クレジットやリスク債権を抑制し、投機バブルを封じ込もうとしたことで、多くの消費者に届くイージーマネーが減った。

 こうした要因が、消費者支出の重しになる可能性が高いと、アナリストはみている。

 中国政府は、自動車購入に対する補助金を1月発表するなど、消費下支え策を打ち出している。自動車売り上げは昨年、この20年で初めて減少した。政府はまた、多くの市民を対象に、所得税の負担を減らして手取り収入を引き上げる対策を取っている。

 所得成長の減速や家計の借金増による消費者マインドの低下を、政府対策が押しとどめられる可能性は低いと、アナリストは予想する。

 とはいえ、消費者が全く支出しなくなったという訳ではない。最近、鄭州の大衛城を午後に訪れると、新商品の口紅を手にしたり、カフェでラテを飲む買い物客で大いににぎわっていた。

 だがこの日、Zhaoさんの姿はなかった。

 30年近くの住宅ローンを抱え、自動車ローンの残高も残っている彼女は、大衛城ではしばらく買い物しないだろうと話す。「収入が下がったので、倹約しなければいけない。不必要な高級品を買うのは当分やめる」

 (Stella Qiu記者、Yawen Chen記者、Philip Wen記者、翻訳:山口香子、 編集:下郡美紀)