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焦点:英暴動の拡大懸念色濃く、「アラブの春」との共通点も

2011年8月10日

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 [ロンドン 9日 ロイター] 男性射殺事件に端を発してロンドンから始まった暴動は英国各地に拡大。今回の一連の暴動では、参加する若者たちがソーシャルメディアを駆使して仲間を集めるなど、民主化を求めて若者が立ち上がった民衆革命「アラブの春」に共通する特徴も表れている。

 しかし、アラブ地域の若者たちが建設的な変化を望んだのに対し、英国の暴動は略奪行為や感情を爆発させることにフォーカスしている点など、明らかな相違点もある。

 世界を見渡せば、失業率を悪化させた金融危機が、若者全体に自分たちが求めるものとは程遠い機会しか与えられていないと感じさせ、若者が未来への希望を見いだせないところまで来ているのかもしれない。

 先進国で金融危機が起これば、ほぼ確実に未経験労働者らがしわ寄せを受け、新卒者の求人から工場労働の求人に至るまで、若者から雇用機会を奪ってしまう。少子高齢化社会で増え続ける社会保障費を支える世代の若者にとって、経済の低迷は満たされない感情を増幅させている。

 暴動が起きたロンドン東部ハックニーの電気技師、エイドリアン・アンソニー・バーンズさん(39)は、「とても悲しく思う。しかし、若者は職も未来もない。(暴動に参加した)若者たちは、われわれとは違う世代で何も気にしない。事態は始まったばかりだ」と話した。

 <緊縮>

 今回の暴動では、特に二つの要素が勢いに拍車をかけたとみられている。1点目はソーシャルメディアの普及で、即座に仲間を呼び組織的な暴動が行われた。2点目は経済的変化で、以前から存在した窮状を悪化させた。

 英国では、財政再建のために打ち出された緊縮財政策によって、すでに顕在化していた社会問題がさらに深刻化。緊縮財政策では、青少年支援事業など「必要がない」とされた公共サービスへの予算が大幅にカットされた。

 ソーシャルメディアの活用に関しては、今回は主にスマートフォン「ブラックベリー」の匿名メッセージ機能が利用され、若者たちの暴徒化をあおった。また加熱するメディア報道が、別の地域の若者を便乗させた。この事象はエジプトの民衆革命が衛星放送の報道やツイッターなどによって各地に拡大した点と共通する。

 英諜報機関の政府通信本部(GCHQ)の元高官で、現在は王立統合防衛安全保障研究所(RUSI)の上級研究員を務めるジョン・バセット氏は、「政変が起こったカイロや略奪のあったトットナムに限らず、ソーシャルメディアが国家と個人との間のパワーバランスに変化をもたらしているようだ」との見解を示した。

 またバセット氏は「今の世の中には、ソーシャルメディアとともに生きる若い世代と、強い自信を持てない警察官や官僚の世代が存在する」と続けた。

 経済成長期において政府は、暴動に対処するため治安部隊への予算を拡大させるか、暴動が沈静化した後、被害を受けた地域への補償を行う措置を取ってきた。

 ただ、こういった措置は、市場などが求める緊縮財政策の対応に追われている国々では、実施が困難になってきている。財政危機の渦中にあるギリシャやスペイン、イタリアでは、ロンドンのような混乱はみられないものの、若者が政府への抗議の先頭に立っている。

 <不満>

 ロンドンに拠点を置くコンサルティング会社AKEのアナリスト、ルイーズ・タガート氏は、「暴徒化する若者たちの不満は共通している。英国だけの話ではない。当局が問題に対処しなければ、暴動がさらに拡大する危険もある」と警鐘を鳴らす。

 暴動鎮圧対策の一つとしてロンドンの警察当局は、暴動に参加する若者たちの親に対し、子どもたちの暴力的行為を抑えるよう訴えている。これについて専門家らは、家族や地域社会が一体となって取り組むことが事態改善につながるとみているものの、解決には抜本的な対策が必要だと強調する。

 ソーシャルメディア自体も短期的ではあるが、解決策の一つとして利用されている。ロンドンの住民らは9日、ツイッターを使って「暴動クリーンアップ」作戦の実行を呼び掛けたほか、あるウェブサイトでは、身元の特定に役立ててもらおうと略奪犯の写真が掲載された。

 政権崩壊にまで至った「アラブの春」から得られた教訓の一つは、暴動鎮圧に武力を行使しても効果的ではないということ。中東シリアの治安部隊は、反政府デモ弾圧で数百人を殺害したが、デモのうねりを鎮めることはできていない。

 社会心理学者で行動経済学者でもあるピーター・ブッツィ氏は、「政府はソーシャルメディアと地域社会の代表者らを通して、若者と向き合う必要があり、希望のメッセージを発するべきだ」とした上で、「現代の問題の多くは、社会経済と文化的融合の欠如に起因しており、それが喪失感などを生んでいる」と解説する。

 これから先、短期的には警察をはじめ経済界や政界は、さらなる暴動に備える必要がありそうだ。来夏にはロンドン五輪を控え、政党の党大会も都市部で開催される予定になっており、これらのイベントは暴動発生のリスクを考慮した上での開催を迫られる。

 IHSジェーンズの欧州治安問題担当アナリスト、カリーナ・オライリー氏は「背景に経済的、政治的要因があるが、これは真に『政治的』と呼ぶことはできない」と指摘。「これは虚無的であり犯罪行為だ。怒りに満ちた貧困層の若者は、暴動は実行可能で罰を逃れられるものだと感じている」と若者の感情を分析した。

(ロイター日本語ニュース 執筆:Peter Apps記者、翻訳:野村宏之、編集:本田ももこ)

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