【カイロ=井上道夫】反米宗教指導者サドル師率いる民兵組織マフディ軍との戦闘拡大に手を焼くイラクのマリキ政権が、友好関係を保っていた隣国イランに使節を送った。米軍はイランがマフディ軍に武器を供与していると非難。それを受けて、イランと直談判せざるを得なくなったとの見方が強い。米国とイランとの板挟みの中、マリキ首相は窮地に立たされている。
治安悪化のきっかけは、3月25日に南部バスラで始まったマフディ軍掃討作戦。マリキ首相が現地で直接指揮をとる異例の展開で、民兵組織解体への強い決意を見せた。しかし、首相直系の治安部隊は逆にマフディ軍の激しい抵抗に遭い、戦闘は首都バグダッドにも拡大。米軍も戦闘正面に出ざるを得なくなった。
この影響で昨年10月以降、50人以下で推移していた米兵の死者数は4月に52人(民間統計)に達し、イラク人の死者数も3〜4月にかけ2カ月連続で千人を上回った。
イスラム教シーア派主導の政権を率いるマリキ首相は、同じシーア派ながら政権を離脱したサドル師に対し、「マフディ軍を解体しなければ、10月の地方選挙にサドル派を参加させない」と迫った。しかしサドル師は応じず、米軍は、サドル師と、その背後にいるとされるシーア派の大国イランへの非難を強めた。
治安回復に向けた力量不足を露呈してしまったマリキ首相は1日、国民議会のシーア派議員団をイランに派遣した。AP通信などによると、議員団は、イランの革命防衛隊の精鋭「アルクッズ旅団」が武器支援や軍事訓練を施していることを示す写真などを持参したという。
イランのアフマディネジャド大統領は今年3月、イランの大統領として79年のイスラム革命以来初めてイラクを訪問し、マリキ首相と会談した。この友好関係をてこにマフディ軍解体への流れをつくる計算とみられているが、イラン外務省のホセイニ報道官は「イラクで続く紛争解決のために議員団との話し合いには応じる」と述べるにとどまった。
AFP通信によると、議員団はイラン国内に滞在しているとみられるサドル師との面会を求めたが、同師は話し合いに応じず、「タラバニ大統領とマシュハダニ国民議会議長の主導でしか解決できない問題だ」と述べた。旧フセイン政権時代からイランとの太いパイプを持つ有力者を名指ししたことで、マリキ首相の指導力低下とイランの影響力が暗に示された形となった。
今回の掃討作戦は、10月に予定される地方選挙に向け、サドル派に打撃を与えることが目的という側面もある。
マリキ政権を支えるシーア派与党会派に加わるイスラム最高評議会(SIIC)は、サドル派と激しい勢力争いを続けており、多数の議席を確保すると予想されるサドル派の伸長を掃討作戦によって食い止めることは、マリキ首相の思惑とも一致している。