【カイロ=山尾有紀恵】政変が続くエジプトは、知る人ぞ知る「痴漢大国」だ。男社会の下でかき消されていた被害女性らの声が、「アラブの春」をきっかけに表に噴き出した。政治も警察も当てにできず、我が身を守るために動き出す女性たちもいる。
「アラブの春」で表に噴出■罪悪感ない男性「不況のせい」
「ひどい言葉を浴びせられたり、体を触られたり。1日に3〜4回はセクハラや痴漢に遭う」
エジプトの首都カイロ市内を走る路線バス。毎日の通学に使う学生のヌラン・サイドさん(21)は、車内で眉をひそめた。
バスや地下鉄などの公共交通機関は運賃1〜2エジプトポンド(14〜28円)と安価で、「庶民の足」だ。朝夕のラッシュ時などにすし詰めとなる車内で、女性たちを悩ませているのが痴漢やセクハラ行為だ。最近、注意すべきは成人男性とは限らない。「子供も常習犯。母と一緒に歩いていてセクハラに遭うこともある」と、ヌランさんは憤る。
女性の権利促進を目指す国連組織UNウィメンが今春発表したエジプトのセクハラ実態調査では、女性の99・3%が被害に遭ったことがあると回答。その9割が通りや公共交通機関などで起きた。被害者の6割は胸などを触られる悪質な痴漢の被害を受けている。
一方、セクハラや痴漢をしたことがある男性は51・6%。理由の約7割が「性欲を満たすため」だった。年齢別では、19〜24歳が4割で最も多く、18歳以下も3割を占めた。
国民の約9割がイスラム教徒で、女性は頭髪を隠すベールをかぶり、長袖のシャツにロングスカートが日常的な服装だ。髪や肌を隠すのは、誘惑に負けやすい男性の視線を遮る意味もあるのに、効果なしだ。
男性にも聞いてみた。
「全く罪悪感はない」。セクハラや痴漢を繰り返しているという男性(20)は、朝日新聞の取材に「結婚したくても仕事がないからできない。セクハラしない男なんていない」と開き直る。エジプトでは結婚前に男性側が家を購入し、生活の基盤を整えるのが一般的だ。しかし、平均的な大卒初任給は約400〜600エジプトポンド(5600〜8400円)。失業率は約13%に達し、若者の結婚難は深刻になっている。
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朝日新聞国際報道部