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受講熱 寺院が背押す 医療長寿(9)

2008年03月25日

■店舗が林立 課題は「質」

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2人一組でタイマッサージを練習する受講者。国籍も目的も様々だ=バンコクのワットポー伝統医療学校で、柴田写す

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タイ保健省の公認免許

 バンコクの街を歩けばいたるところで足裏にツボの位置を示した看板をみかける。タイマッサージ店である。「古式按摩(あんま)」の字もみえる。タイにタイマッサージ店が多いのは当たり前のようだが、「雨後の筍(たけのこ)」のような繁盛ぶりは、せいぜいここ十数年のことだ。

 外国人観光客が多く訪れるシーロム地区のマッサージ店に勤めるルンさん(30)は、東北地方スリン県の出身。高校卒業後、首都近郊のコンピューター部品工場で働いていたが、4年前に転職。収入が良いと友人に勧められたからだ。

 1時間250バーツ(1バーツ=3.3円)の料金のうち100バーツがルンさんに入る。さらにチップ。1人平均100バーツ。中には500バーツをくれる外国人もいる。月収は以前の1万バーツから5割以上増えた。大卒の初任給を上回る。

 ルンさんが一念発起して技術を習得したのは、涅槃(ねはん)仏で有名な王立寺院ワットポー。正確には境内にある伝統医療学校だ。タイマッサージの総本山である。

 実は、同校がマッサージの講習を始めてからまだ半世紀もたっていない。

 伝統医療の古文書類が残るワットポーの遺産を発展させようと、檀家(だんか)の代表で代々薬局を営むガムトーン氏らが55年、同校を設立した。61年、プミポン国王が同校を訪れた際、「マッサージは教えていないのか」と尋ねた。当時はまだ教科に入っておらず、翌年、マッサージの講習を始めた。

 これが事始め。マッサージの発展にもタイ社会のキーワード「王室」と「仏教」が深くかかわっているというわけだ。

 ガムトーン氏の息子で現在の理事長プリーダ氏(68)によると、受講者は当初タイ人ばかりだったが、約30年前にイタリア人が門をたたいた。外国人受け入れの始まりという。

 90年代に入ると世界的な健康・癒やしブームで受講者が急増。今や本校の校舎は五つとなり、他に4校を直営する。受講者はタイ人が7割。外国人の国籍は75カ国に及び、昨年は約1万2000人。日本人の5000人を筆頭に、韓国、ドイツなどが続く。

 近年、他にも多くの学校が誕生した。鶏か卵か。学校で修業した人らが勤めるマッサージ店も急増する。97年のアジア経済危機後、政府も後押しを始めた。就業機会の少ない中年女性を対象に政府が教室を開いた。

 隆盛を極めるタイマッサージだが、「問題は質の維持と確保だ」と保健省のパタラ医療資格部長はいう。

 まず、政府が産業の全体像を掌握できていない。店やマッサージ師、学校の数もわからない。

 保健省は04年、規定を満たした店に免許を出し、マッサージ師は同省認定の履修課程で運営する公認学校の修了証を持たなければならないと定めた。店の免許制度は66年からあったが、風俗系の店の申請が多く、77年に停止されていた。

 制度が復活して3年余。ただ、罰則や取り締まりはないから今でも無免許で店を開けるし、修了証がなくても施術が可能だ。06年の政府統計では、免許を得た店は639、マッサージ師は約1万6000人、学校は178。だがパタラ部長はそれぞれ1万店、10万人、300校と推計する。

 保健省はマッサージ師に最低80時間の講習を求めているが、ワットポー医療学校のタイ人向け講座は60時間。同校はその差を気にする風もない。「マッサージの産業化」に寄与した同校のお墨付きは、国の権威を凌駕(りょうが)しているのだ。

■癒し求め 日本人も殺到

 勢いは日本にも及ぶ。都会を中心に増殖するタイマッサージ店。タイ以外でこれほど多いのは日本だけだという。その多くがワットポーの修了証を掲げる。

 バンコクで日本人在住者が集まる地区の一角にあるワットポー・マッサージスクール・スクムビット校。ワットポーの本校から派遣された教師らによる日本語の指導の下、日本人受講者が2人一組で実技を学ぶ。

 大阪市北区の村上智美さん(37)は2月から2カ月半滞在して、基本、上級、足など全講座を学ぶ。将来開業するつもりだ。昨年9月に初めてタイを訪れ、マッサージを受けて気に入った。「指圧やストレッチなど様々な要素が入っていて日本人にぴったり」

 スクムビット校を立ち上げたのも日本人だ。近くで旅行社を経営していた松永玲子さん(64)が97年、本校に出向き「タイの文化を日本で広めてみせる」とプリーダ理事長に直談判。講師派遣を取りつけ、提携校として翌98年に開いた。日本の駐在員の家族から常々「ワットポーでマッサージを習いたいが、遠すぎる」と聞かされていたからだ。

 日本の旅行社と組んで講習ツアーを企画。本校では連続5日間と決まっている受講時間を「随時」とした。日本でマッサージ店を始める人を支援。受講者は月30人足らずから260人に増えた。9割は日本人。うち7割は日本からわざわざ来る。

 「癒やしを求める時代と不況が重なり、資本のいらない仕事ということが受けたと思う」と松永さん。

 ただ、タイマッサージ店は日本の法律に規定がないので、だれでも開業できる。同校の基本コース(30時間)を終えてすぐ仕事を始める人も多く、ここでも質の確保が課題のようだ。(バンコク=柴田直治)

    ◇

 〈タイマッサージ〉 インドのヨガ、中国の指圧の影響を受けた療法。ストレッチの要素も加わる。生命力の流れる筋(セン)に圧力を加えるのが特徴。約2500年前、釈迦の時代にインドで創始された医術が仏教とともにタイに伝来したとされる。スコータイ、アユタヤ時代の文献にも記録が残る。ワットポーにはツボを示す図など伝統医療の古文書類が残る。

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