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よこせ卒業証書、私大急増の中国 大学(1)

2008年4月8日

    写真南京理工大学紫金学院の校内で昨年7月、卒業証書の名義の変更を求めて抗議集会に集まる学生たち。その後、校内施設を破壊するなどの騒動に発展した=集会参加者提供写真写真

    ■「国立傘下」学生募集

     南京市郊外にある4年制大学「紫金学院」。散歩をしたり、バスケットボールを楽しんだりする学生の姿が見える。一見のどかな学園風景だが、道ばたで出会った学生は「昨年の騒動はすごかった」と教えてくれた。

     同学院は国立南京理工大学の傘下だが、浙江省の靴メーカーが出資する私立大。昨年7月、卒業を控えた4年生約700人が「南京理工大の卒業証書を出せ!」と、座り込みの抗議集会を行った。寮の部屋から湯沸かし器や洗濯機など粗大ゴミや紙切れが一斉に投げ捨てられ、街路灯を破壊する騒動にまで発展した。

     騒動の原因は卒業証書の名義だ。学院は入学時に「卒業証書は南京理工大学名義」と説明。だが、実際の証書は、表紙にこそ南京理工大と書いてあるものの、本文は紫金学院の名前。就職難の学生たちにはまさに死活問題だった。

     座り込みに加わった卒業生の男性(23)は「学費は高いのに、入学当初は宿舎や教室など最低限の施設だけ。本校の証書がもらえると我慢したが、4年間だまされた」。別の卒業生(24)は「理工大の証書なら初任給2千元(約3万円)以上の職が見込める。紫金学院だと1千元ほどの職しか見つからない」と話す。

     中国では、国公立大の傘下に「○○学院」という私立大がぶら下がっていることが多い。民間資本で教育施設を拡充しようと99年に導入された独立学院制度でできた「公立大の中の私立大」だ。中国の大学・短大進学者は07年に約570万人に達し、10年間で5倍以上に急増。国公立大の収容能力が追いつかなかったことが背景にある。

     学費は公立の3〜4倍と高いが、合格ラインは低い。名門大傘下でハクも付き、一般の私立大より人気が高い。全国に318校あり、学生数は約190万人。4年制私立大全体の88%を占める。

     不満を唱えたのは、上部の本校の学生たちだ。難関をくぐり抜けてきただけに、「本校に合格できなかった学院生が同じ証書を得るのは不公平だ」との声が高まった。教育省は03年、独立学院に校舎や教師を独自で確保し、卒業証書も学院名を明記することを義務づけた。

     紫金学院は03年の新入生から独自の証書を出すことに決めたが、学生への説明はあいまいだった。呉恒心・副院長は「本校の卒業証書を出すと説明したが、全く同じとは言っていない」と言うが、「本校の証書を出せないと運営が困難なのも確か」とも。同様の騒ぎは安徽、河南、四川各省などでも起きている。

    ■定員超過 経営を優先

     教育省は昨年5月、「イエローカード大学」約30校を発表した。定員を大幅に超えた学生を受け入れたとして、募集者数を厳しく制限したが、中には大規模な暴動が起きた私立短大もあった。

     江西省南昌市郊外にある江西服装職業技術学院。学生寮や運動場などいたるところに「学園を安定させよう」「秩序を保とう」などと書かれた横断幕が掲げられている。同学院では06年10月、学生千人余りが「専科大学(短大に相当)の卒業証書の発行」を求めてデモ行進。その後、学生はガラスや家具、マネキンなどを次々と壊し、教師らが全員逃げ出す事態に発展した。装甲車と武装警官約千人が動員されたという。

     当時入学したばかりだった2年生の男子学生(20)は「校内は無政府状態。学生が事態を全国に伝えないよう、地元政府が携帯やネットの通信も遮断した」と話す。89年の天安門事件の経験から、当局は学生暴動に敏感だ。

     地元報道や学生によると、同学院は03〜05年、定員計約4千人の4倍以上、約1万8千人の学生を受け入れた。学院側は募集時、「短大卒の資格が得られる」と説明したが、実際に得られるのは定員分の学生だけで、ほかは資格取得に別の試験を受ける必要があった。女子学生は「学費は同じなのに学生に2種類の身分があることを知らせなかった」と批判する。

     陳万竜院長は「学生には最初に説明した」と弁解する。と同時に、「国の募集計画では当校の収容能力の半分しか満たせない。国の補助はなく、学生を集めなければ運営は厳しい」と本音も語った。

     90年代後半、政府は経済発展に役立つ人材を増やそうと大学の定員を大幅に増やし、私立校の開設ラッシュにつながった。一方、企業は急増した大卒者を吸収しきれず、今や新卒者の3割が就職できないと言われる。

     上海市教育科学研究院の胡瑞文研究員は「中国では世界でも例がない大学生の急増ぶりで、政府は私立校の発展を促した。だが、一部の経営者が投資を早く回収しようとして問題が起きている。中国の私立大の歴史は浅く、試行錯誤を繰り返している段階だ」と分析している。(上海=西村大輔)

        ◇

    〈中国の大学教育〉 中国の大学教育は、4年制以上の大学にあたる「本科」と、日本の短大にあたる2〜3年制の「専科」に分かれる。いずれも国や地方政府主催の統一試験で合否を決める。全国の大学・短大は約1900校で、うち私立校は約280校(独立学院は含まない)。私立大は戦前からあったが、新中国の成立後は国営化。改革開放以降、80年代後半から再び私立大が開設され始めた。 

        ◆

     若者が抱える矛盾を映し出すアジアの「大学」の実情をシリーズでお伝えします。

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