2008年4月29日
無認可の「ナショナル教育カレッジ」が入った商業ビル=ニューデリー東部、小暮写す
■ビルの一室、年1000人登録
ニューデリー東部。大通りに面して商業ビルが並んでいる。銀行の支店や雑貨店、不動産仲介業者などが入る古ぼけた4階建てのビルの3階の外壁に、「ナショナル教育カレッジ」(NCE)という看板があった。
ガラス扉を入ると受付カウンターがある。朝日新聞ニューデリー支局のインド人助手が訪ねて入学手続きなどの説明を求めると、奥の部屋に案内され、若い女性事務員3人の説明を受けた。
「当カレッジは、87年に設立され、卒業生は国内外の一流企業で高給の職に就いています」。毎年1千人の登録がある、と学校紹介が続く。
広さ120平方メートルほどの普通のオフィス。学生の姿はない。「ここは大学ではないのですか」。助手が尋ねると、「認可された大学の組織の一つです。その大学の教育が受けられますよ」。
コースはすべて通信制で、経営学や歴史学、社会学、教育学などで学士、修士の学位が取れるという。学費は最大で年1万9千ルピー(約4万9千円)。大学の入学志願に必要な12年生(日本の高校3年に相当)が受ける共通修了試験の結果が出る前でも、登録が可能だと説明された。
もらった学校案内には「政府の大学認可委員会の認可を受けたブンデルカンド大学に認められている」とあった。大学認可委に問い合わせると確かにブンデルカンド大学は認可されている。だが、同大学からは「当大学にNCEという組織はありません」との答えが返ってきた。
翌日、記者と助手で改めてNCEを訪問。「ブンデルカンド大学の組織にNCEはないと聞いた。どうなっているのか」と尋ねた。
すると、女性はしたり顔で「この学校案内は少し古いものです。その大学との契約は既に解除され、今は別の大学と提携しています」と二つの大学の名前を挙げた。
その大学、「アラハバード・ヒンディー大学」と「ラクナウ・オープン大学」は、大学認可委の認可リストにはなかった。大学のウェブサイトや電話番号も見つからず、結局、存在自体を確認できなかった。
後日、NCEで1年前から学んでいるという女性(24)に電話で話を聞いた。
民間企業に勤めていたが、教職に就きたかった。そのために教育学士号が取りたくて、ここで「学士号」を取ったという友人から勧められて登録。ほどなく自宅に教材が送られてきた。年に1度、試験があり、実際に市内に設けられた会場に行って受けたという。
NCEについては、有力地元紙のヒンドゥスタン・タイムズが4年前、「ニセのカレッジ」だと報道している。彼女はそれを知らなかった。「私の理解では、今でもここは正式な学位をくれるカレッジだと思っている」。しかし、何らかの教育を受けられるとは言え、無認可の組織から出された「学士号」は、正式な学位とは認められず、ただの紙切れにすぎない。
■高まる高等教育需要 もれた人の受け皿に
インドでは、政府の認可を受けていないニセ大学の問題が後を絶たない。
認可委は96年、「不正行為担当部」を設置。被害を受けた人の苦情やメディアの報道などを端緒にニセ大学のリストの公開を始めた。最新のリストでは21校。だが、そこにNCEの名前はない。
認可委が把握するインドの大学はおおむね、主に大学院レベルの教育を提供する「ユニバーシティー」と、ユニバーシティーがその傘下の組織として認め、学部レベルの教育をする「カレッジ」に分けられる。あるユニバーシティーの傘下のカレッジと勝手に自称している場合、認可委はその存在を容易につかめない。
認可委のパラテ次官補は「詐欺の疑いが強いが、被害者から苦情がない限り、情報が上がって来ない。こんな組織が一体いくつあるのか、実態の把握は難しい」と認めた。実際は21校よりずっと多いとみられる。
どうして、ニセ大学がはびこるのか。教育事情に詳しい英字誌「インディア・トゥデー」のシュルティ・マヘシュワリ記者は「経済成長下で、高等教育への需要が高まっている。だが、トップレベルの大学の定員は限られており、どうしてもあぶれてしまう生徒が出る」と指摘する。認可委によると、全国の大学の在籍者数は年々増え、06年度は1161万人。20年前の3倍増だ。
政府の認可を受けるには、キャンパスや教員の確保はもちろん、理事会などの組織や図書館、実験棟などの施設を備える必要がある。小さな事務所と教材だけで「開校」できるニセ大学は、手っ取り早い詐欺ビジネスだ。多くは通信制で、実際に教材が送られてくるから、だまされているとは気づきにくい。無認可だと指摘されても、業者は「認可手続き中」「認可委とは別の民間機関で承認されている。民間企業に勤める場合はそれでも有効です」などと言いくるめるという。
ニセ大学を受け入れる風潮もある。通信教育で学歴のハク付けだけを求める社会人の一部は、学位そのものが怪しくてもあまり気にしない。
NCEで学ぶ冒頭の女性は最近、市内の大学のコンピューター講師の職を得ることができた。「教職に就けたから、もう学位取得は重要でなくなった。そこがニセ大学でも構わないわ」(ニューデリー=小暮哲夫)
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インドの教育制度 6〜13歳で学ぶ初等教育の8年間が義務教育で、その後、前期2年、後期2年の中等教育がある。中等教育の最終学年(12年生)に、共通の修了試験があり、多くの大学は、この共通試験の点数で志願者の中から入学させる生徒を選抜する。