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ニッポン人脈記

「花を咲かせ」若者が歩く

2006年02月20日

 東京・新宿の裏通りの古い家、アトリエ「猫の家」に住む画家増山麗奈(ますやま・れな)(29)は今年1月22日、2番目の女の子藍沙(あいしゃ)を産んだ。自分の中から出てきた赤ちゃん、ぴゅーぴゅー出る母乳。いのちの不思議さを改めて感じる。

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桃色ゲリラの衣装を着た増山麗奈さんと藍沙ちゃん。後ろの絵はイラクをテーマに増山さんが描いた

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内山隆さん、星野ゆかさん夫婦

 03年3月8日、イラク開戦の不安が高まるなか、都心の街を市民たちの反戦パレード「ワールド・ピース・ナウ」が行く。そのなかで、派手なピンクのビキニスタイルで踊るように歩く4人の女性が目立っていた。増山ら「桃色ゲリラ」の登場である。

 「戦争は死。いのちを産みはぐくむ女の性は平和。アーティストの仲間で、戦争反対で何か派手にやりたいねとお茶飲んだりしながら相談した」

 ほとんどはだかで「戦争反対」などと歩いていいのか? 警察からもパレード側からも異議が出た。「でも、私たち、ふだん着ている服とそんなに変わったわけではないし……」。「NO! WAR」の旗を掲げた「桃色ゲリラ」は、その後も米大使館前、防衛庁前、渋谷や新宿に出没した。

 増山は「高校までは順調だった」けれど、東京芸大に入って家を出て「流浪の民のように悪の限りをつくした」というのだから、どこか思い切ったところがあるのだろう。04年2月、イラクのアーティストに会いたいと、戦火収まらぬバグダッドに乗り込む。日本人3人の人質事件が起きる2カ月前のことである。

 「反戦運動の中だけにいると、決まったセンテンスをただ唱えるだけになっちゃって」。さすがに身が危ないと、現地で増山を迎えたのがフリージャーナリストの志葉玲(しば・れい)(30)である。

 増山の最初の夫はちんどん屋で「街頭パフォーマンスを教わった」。イラクから帰国後、夫と別れて志葉と結婚、藍沙ができた。「イラク戦争がなかったら、この子もいないんだよね!」。このめぐりあいの不思議さ。

 

 

 現代の若者たちの「反戦」は、01年9月11日のニューヨーク、ワシントン同時多発テロから始まる。米国はアフガニスタンを報復攻撃するらしい。「何かしなくちゃ」。劇団民芸の俳優星野(ほしの)ゆか(37)は、どこかでデモをしていないかインターネットで探した。でも、シュプレヒコール!なんていうのは嫌だし……。やがてみつけたのが、渋谷近辺を歩く「CHANCE」(平和を創(つく)る人々のネットワーク)のピースウオーク。

 「CHANCE」が最初のデモをしたのは9月23日。インターネットのメーリングリストで呼びかけたら500人が集まった。ジョン・レノンの歌「Give Peace A Chance」を流しながら、「足跡から一輪一輪花が咲くように」思いをこめて歩く。中心メンバーには、プランナーの内山隆(うちやま・たかし)(39)やフリージャーナリストの志葉らがいた。

 星野は思い出しながら涙ぐむ。「ひとりだと、迷い、不安になる。戦争止められるわけないじゃんといわれるとそうかなと思ったりする。デモってどんな格好していけばいいんだろうと怖くなったりする。出かけると、私ひとりじゃないんだとうれしくなる」

 02年4月から5月にかけて、星野、内山らはパキスタンの避難民キャンプとアフガニスタンを訪ねた。現地で「ヒロシマ・ナガサキを知ってるよ。君たちは日本で頑張って」と励まされる。

 星野はその後、内山と結婚した。「9・11は、仕事も違って会うはずのない私たちを出会わせ、めざめさせた」と星野。内山はいま、貧困撲滅をめざす国際的な活動「ほっとけない世界のまずしさ」キャンペーンにも取り組む。

 

 戦火の下で、いたわりあいながら暮らす人々がいる。戦争反対の中で愛にめぐりあう人々もいる。

 戦後燃えさかった平和運動は、今どうなっているのか、どこへ行こうとしているのだろうか。

 (このシリーズは本社コラムニスト・早野透、写真は中井征勝が担当します。本文は敬称略)

「ニッポン人脈記」は、月曜日から金曜日の朝日新聞夕刊(夕刊のない地域では火曜日から土曜日までの朝刊)に連載。このページでは各シリーズごとに1回目を掲載します。 ≫朝日新聞購読のご案内

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