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ニッポン人脈記

「外へ出る夢」追い求め

2006年11月07日

 「終わったら抜け殻」「思い出しては涙ぐむ」……。

 5月末から2カ月間、平日午後1時半からTBS系で放映された「ヤ・ク・ソ・ク」。ホームページは主婦たちの熱烈な書き込みであふれた。南野陽子演じる主婦と、ヤン・ジヌ演じる年下の韓国青年の不倫を描いた「和製韓流ドラマ」である。10%弱と「昼メロ」としては高い視聴率。コミックや小説も出て、今月発売のDVDは売り切れが相次いだ。

 放映のきっかけは、毎日放送プロデューサーの登坂琢磨(とさかたくま)(41)が、ノンフィクション作家の石川結貴(いしかわゆうき)(43)と飲んだこと。テレビには働く若い女性向けのドラマばかり。「主婦がリアリティーを感じられるドラマを」と、石川は訴えた。

 「メディアが描くのは家事が得意なステキな奥さんか、不倫の好きなスケベな奥さんか。生身の主婦はそうじゃない」。そう言う石川には、痛切な体験がある。

 大学を出てまもなく、自営業の夫と結婚して専業主婦に。80年代のバブル経済の下、「主婦も簡単に自立できる」との記事やCMがあふれていた。ところが夫とけんかをし、勢いで幼児2人をつれて家を出ると、不動産屋を何軒回ってもアパートを借りられない。相談できたのは夫の友人だけ。アドバイスは「主婦では無理。ご主人の名で申し込みなさい」。

 30歳近くになって部屋ひとつ借りられない? 主婦ってなに? 足元が崩れていくようだった。夫に泣きついて、家に戻った。

 「主婦の本当の姿を知ってほしい」。石川は、主婦仲間の回覧ノートや投稿誌「わいふ」に、一見「お気楽」にみえる主婦の悩み、憂鬱(ゆううつ)を書きつづった。それが雑誌「SPA!」の目にとまり、97年、「ブレイク・ワイフ」(扶桑社)の連載が始まる。

   *

 石川が思いをぶつけた「わいふ」を、同じころ永田美江(ながたみえ)(44)もむさぼるように読んでいた。「再就職はいつでもできる」と、結婚退職し夫の転勤で東京から名古屋へ。子どもと2人きりの社宅で追いつめられ、小さなわがままを1時間半もしかり続けた。「母親が楽しくなければ子どもも不幸」との「わいふ」のメッセージに、気が楽になる。外へと飛び出した。

 仲間と情報誌を始めたら、主婦向けのクラシックコンサートの話が持ち込まれ、企画グループ「SKIP」をつくった。託児サービス付きイベントのはしりとなる。

 94年の初回、約80人の子連れ主婦がきた。いまSKIP副理事長の水野真由美(みずのまゆみ)(40)はその一人。子育てや家事の日々に満足していたはずなのに、久々のコンサートに涙がとまらなかった。

 2度目のコンサートには現理事長の佐伯恵子(さえきけいこ)(46)が参加した。5年待った末の赤ちゃんだったが、「いいお母さんにならねば」の重圧に苦しんだ。「母親でも街に出ていいんだ、と救われた」

 「子どもを預けてまで遊びたいのか」と批判も。学者を招き勉強会を始めた。最初はファクス、次に電子メールで連絡網も作った。外に出にくい主婦の命綱である。

 石川や永田を支えた「わいふ」は、もとは兵庫県のミニコミ誌だった。メンバーだった和田好子(わだよしこ)(75)が、夫の転勤で東京に移り、PTAで出会った田中喜美子(たなかきみこ)(75)と再スタートさせた。田中は、研究者の夫の渡米を機に仏文学者の道をあきらめていた。

 ここを根城に世に出たライターは約40人。編集長の田中は言う。「以前の主婦は、だれが食わせてるんだと夫に威張られ、自立を願った。いま夫はやさしくなり、職場は過酷になるばかり。夫がリストラされる不安はあっても、外へ出る夢さえ持たない主婦が増えた」。働く仕組みから問いたいと、田中は93年、女性と政治がテーマの雑誌「ファム・ポリティク」を創刊する。

   *

 家事や育児、介護などに誇りを持ちたい。一方で抱える、社会に認められないのではとの不安。ジレンマから抜け出そうとする主婦たちの試みを追う。

 (このシリーズは竹信三恵子が担当します。本文は敬称略)



「ニッポン人脈記」は、月曜日から金曜日の朝日新聞夕刊(夕刊のない地域では火曜日から土曜日までの朝刊)に連載。このページでは各シリーズごとに1回目を掲載します。 ≫朝日新聞購読のご案内

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