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「北の国から」2007年春

2007年04月02日15時10分

 「あなたは文明に麻痺していませんか」

写真倉本聰さん。1月、富良野で
写真吉田紀子さん
写真竹下景子さん

 北海道・富良野の広い大地の谷あいにある富良野塾。丸太で組み上げた稽古場棟に、脚本家倉本聰(くらもと・そう)(72)が84年の塾創設にあたって書き記した言葉が刻まれている。

 役者とは何か、脚本とは何か。ドラマに情熱を賭けた者たちが2年間、大地で働きながら、厳しく美しい自然と人々と倉本に向き合い、学ぶ。

 倉本はおととい、2010年に閉塾する、と発表した。

   ◇

 最近、倉本は、親父のにおいをよく思い出す、という。

 俳人だった父は、倉本が17歳の時に死んだ。

 「自然の中を歩く人でした。モノは残しませんでした。むしろ借金を残して死んだくらいで。たぶん、残した無形の遺産が、僕の脳みそか心の奥の深部に刻み込まれていて、だんだん表層がはがれて、出てきたのではないか」

 無形の遺産――。倉本は、おのれの五感とドラマへの情熱を心棒に、「まず跳び、しかる後考える」、で生きてきた。

 業界やマスコミの高慢さに腹が立つ。組織人間とぶつかる。東京を飛び出し、やがて行き着いた地が「なんもない。ひどい森だよ」といわれた富良野だった。

 代表作「北の国から」は、その富良野を舞台に生まれた。

 出会いと別れ。倉本が大事にし、描こうとしたのは、自然や季節や森の動物や人間、そのひとつひとつとの出会いと別れだったのではないか。倉本に接して、あらためてそう思う。

 ドラマは81年から21年間続き、最高38.4%の視聴率を記録。若者たちから、手紙が殺到した。

 それは、「人間の暮らしへの根源的な希求ではなかったか」と、倉本は振り返る。

 「今の文明は、都市や道路といった、植物の生えない『不毛の地』を増やし、2、3歩の距離なのにリモコンでテレビをつけエアコンを動かす。人間の消費エネルギーを抑えて今度は運動不足だと高いカネ払ってジムへ通う。これが人類と言えるのか」

 そのツケが地球温暖化ではないか。水や空気の大切さに、人間はどこまで鈍感でいられるのか。

 倉本の富良野塾は人間の、本来の感覚を取り戻す場でもある。

 05年春、倉本は富良野自然塾を立ち上げた。目指すは「カムイミンタラ(神々の遊ぶ庭)」。アイヌ民族がそう呼んでいた、豊かな森の再生である。

 「Dr.コトー診療所」などで知られる脚本家吉田紀子(よしだ・のりこ)(47)は富良野塾の第2期生。

 「創作するということに真剣に向き合っている先生の姿勢は衝撃的でした。創作は2年で学べるようなことではなかったが、学ぶことと生活することが一緒になった2年間は、ある意味でユートピアだった感じもします」

 初心に戻るべく、吉田は今年も富良野を訪れた。

 自然塾のインストラクター5人の中には女優竹下景子(たけした・けいこ)(53)がいる。「北の国から」で主人公黒板五郎の義妹雪子を演じた。

 「いま、自然と人間との間にすごく距離ができて、もっと言うと引き裂かれた状態で生活している。そのひずみが、もしかしたら今日起きている多くの事件につながっているのかもしれません。五感を使う。俳優の仕事は、デジタル化時代にあって限りなくアナログなんです」

 森の声を聴いたことありますか/闇を見たことありますか/あなたは感動を忘れていませんか。

 北の国から、倉本の言葉がどこまで響くか。

   ◇

 私たちは、やみくもに速度を上げて走る時勢に、息切れしそうになっていやしないか。何かを置き忘れていないか。ちょっと立ち止まって、見たい。

(記事は都丸修一、写真は水村孝が担当します。本文は敬称略)

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