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首相も縛るオートコール

2008年11月28日14時44分

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写真岡田博之さん(右)と野沢高一さん。「オートコール」のマシンルームで

写真世耕弘成さん

写真飯島勲さん

 今秋、首相麻生太郎(あそう・たろう)(68)は衆院解散を先送りした。その決断の裏には、ある調査がひそんでいた。

 「○○調査センターです。録音のお電話で失礼します」

 そんな女性の声のコールが、全国約300万の家庭にかかってきたのは9月22日から27日にかけてのことだ。

 総選挙に関心は? 支持するのはどの候補ですか? 答えはボタンを押してください。

 10人のうち9人が20秒以内に「ガチャ切り」する。でも1人はおしまいまでつきあう。30万人の回答が積み重なった。自動的に質問する無人の調査機、その名は「オートコール」。結果はどうだったのか?

 生データを単純に比べるなら、議席は自民党220、民主党210。だが、自民党選対本部事務部長の久米晃(くめ・あきら)(54)が経験値を加味して計算し直すと、大逆転。背筋が凍った。

 「解散は自重すべきです」

 党選対委員長古賀誠(こが・まこと)(68)らに伝えた。それは麻生の耳にも届いたはずだ。

 久米は業界紙記者から自民党職員になって28年、「選対一筋」のベテランである。

 「出張ばかり。知事選でも市長選でも、告示の何日も前から現地にのりこみ、町の中をひたすら歩くんだ。銭湯に入り、飲み屋で客と話をする。日本中の選挙区を何巡したかなあ」

 足でかせいだ経験値。それをかけあわせなければ本当の姿は見えてこない。「生データにはゆがみがある。数字を翻訳して情勢を読むコツがあるんだ。それを知らないと、誤る」

 そんな久米がオートコールを知るのは96年。1台、最高1千万円。20台余りが一斉に動き、いつでも全国調査できる態勢を03年総選挙前にこしらえた。

 オートコールを開発した会社「ジー・エフ」は東京にある。バンダイで「機動戦士ガンダム」のプラモデルを大ヒットさせた仲吉昭治(なかよし・しょうじ)(66)が、91年に起業した。

 いま社長の岡田博之(おかだ・ひろゆき)(44)はいう。「もともとは、中小企業が格安で市場調査できる機械としてつくったんです」

 ところが、その1号機を買った仙台の家具店から転職してきた野沢高一(のざわ・こういち)(49)が「選挙に使える」といいだした。中学時代は「選挙大好き少年」。開票速報をみて、自宅の壁の候補者一覧に紙を丸めた「花」を飾ったりした。

 野沢はオートコールを自民の候補に売りこんだ縁で、久米を知る。「そんなもの、世論調査といえるのか」。久米は半信半疑だった。野沢はふり返る。

 「世論調査の名に値しないことは私にもわかっている。でも繰り返し使えば、当選への強力な武器になると久米さんをくどいた。ただ、今のように300小選挙区を調べ尽くすなんて、思ってもみませんでした」

    ◇

 05年「郵政解散」総選挙。

 自民党参院議員世耕弘成(せこう・ひろしげ)(46)は選対会議でオートコールの数字を見つめていた。当時の首相小泉純一郎(こいずみ・じゅんいちろう)(66)が遊説に入れば、数千票の劣勢は逆転できる。そんな選挙区はどこか。

 NTTの広報部門にいた世耕は、政治家が独りよがりにならないために世論調査を大切にする。「国民の声を精密に聞く道具。政治が影響を受けるのは当然だ」。オートコールとは別に政策の世論調査をした。

 このとき首相政務秘書官だった飯島勲(いいじま・いさお)(63)は、じつはオートコールの結果を小泉に見せていない。「調査がどうあれ、郵政法案が否決されたら解散、と小泉は決めていたから」

    ◇

 いま自民党はオートコールを候補者公認の判断にも使う。久米は「形勢好転の兆しはないか」と、ほぼ2週間おきに勝負どころ22選挙区を調べ続ける。

 「ジー・エフ」の岡田や野沢も「選挙特需」に忙しい。与野党議員らから打診がくると、すぐさま本人の選挙区で100サンプルほど調べ、それを「おみやげ」にセールスに行く。

 世論の風向きが政治を大きく動かす時代。民の心を測る人々のドラマをたどる。

 (このシリーズは文を編集委員・峰久和哲と吉田貴文、写真を山谷勉が担当します。敬称略)

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