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07月09日朝日新聞デジタル朝刊記事一覧へ(朝5時更新)

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 学生時代から漫画やイラストを描く仕事を始めていた辛酸さん。ウェブサイトでつづっていた「女・一人日記」が話題となり、本を出版したのが20代半ばだ。そして美大を卒業する頃からずっと自立したいと思っていた辛酸さんは、思い切った行動に出る。賃貸物件ではなく、いきなり都内のマンションを購入したのである。

 「その時の私の経済状況だと家賃45万円の古いアパートに住むしかない感じ。でもそれはちょっとつらいなと。それで住宅ローンを組んだ方が安いと思い、700万円台のマンションを購入しました。26歳の時です」

 こうして実家を出て独立したことで、自分の人生に対する責任感が芽生え、結果として仕事への覚悟もできたのでとても良い決断だったという。そしてそれ以降、多くの雑誌やウェブサイトの連載をこなし、単行本も次々に出版、ネットの動画番組やテレビ、ラジオに出演するなど活躍の場を広げていく。

 ただ、これほど活動的だとつらいことも多かったのではないか。「そんなにはないんです。でもある時、渡したデータを無くされ、原稿の書き直しがやたらと多く、編集者とうまくいかないなど、ひと月で40個以上のトラブルが続いたことがありました。何だか仕事への覚悟を神様に問われているような気がしましたね」。自虐でもなくサラリとそう語る。彼女が発すると面白おかしく聞こえるから不思議。このおかしみこそがまさに辛酸さんの作品の真骨頂なのだ。

 既に20年以上のキャリアとなる。ここまでやってこられた理由を聞くと、「他に何もできることがなかったから。唯一自分にできることで社会参加させてもらっている感じがします」と謙虚。しかし、独立した当初から頑(かたく)なに守っていることが二つあると言い、どうもそれが今までの活躍につながっているようだ。

 一つは締め切りを守ること。「編集者さんは、やっぱり原稿が締め切り前に納品されたらうれしいだろうなと思って」。そしてもう一つは、どんな仕事でも最善を尽くすことである。「長年やっていると調子が良い時も悪い時もあります。だから目の前のことを淡々と無心でやる。一見地味な仕事でも、誠意を持って続けていれば必ず良い時が訪れるし、それが大きな仕事につながることもありますから」

 最新刊『愛すべき音大生の生態』が3月に発売された。知らない人にとっては謎のベールに包まれている音大生の日々の生活、恋愛や経済事情などをリアルにまとめた一冊。音大生という一つの生き方を、辛酸さん独自の切り口と視点でポップに楽しく伝えてくれている。

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