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06月19日朝日新聞デジタル朝刊記事一覧へ(朝5時更新)

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未知の仕事には成長痛がある

 

 2012年に34歳で競技を引退しました。最後の大会では予選敗退でしたが、全力でやってボロボロになっても、自分のできる範囲を体感値としてつかんでおくことが大切だということはずっと思っていました。人間はなかなか自分を知ることができません。でも、本気で挑んだ時に、得手不得手も含めて自分ができる範囲を実感するものです。これが、その後にも影響していくのですね。

 例えば人は岐路に立った時、こちらを選択した方が良さそうだと勘が働くことがあります。人からのアドバイスなどではなく、うまく理由は言えないけれどやっぱり転機が来たと感じる。それは自分でも気づかないうちに、今までの経験や学びなどが蓄えられているからではないでしょうか。また、仕事を変えようとか、次を考えたいとかと思い立った時に、現在の安定と自分の勘がせめぎ合うこともあります。でも百%の答えなんてない。だから勘で仮に決めて動いてみればいいと僕は思います。

 ただ僕も、最初に陸上競技から外の世界へ出た時はすごく居心地が悪かった(笑)。アスリートは記録に挑むストイックな世界に居て、自分の練習に明け暮れる日常です。しかしビジネスのフィールドは、人も仕事も多様でルールが全く違います。それに適応しながら振る舞いや考え方が分かってきたのですが、過去に居た業界の常識は捨てる勇気が必要だと痛感しました。今持っているスキルが通用するかどうかより、新しい仕事のルールを見極め、自分を活(い)かせるように変わっていく。それが伸びしろを探すということではないでしょうか。

 仕事をする場所が変わると、自分の揺るがない軸を何割かは守れても、無力感を覚える体験や成長痛が生まれてくることがあると思います。でも15年、20年と築いたキャリアは、分かりやすく共有できる言葉に換えれば、その人なりに会社や社会に貢献できるものになるはずです。

 

今までのキャリアを言語化する

 

 僕たちは、同じ組織内で同じ用語を使い、それが当たり前になっていきます。これが一歩外に出ると通じない。引退したアスリートのセカンドキャリアを探る時に、「君がやってきた仕事をスポーツ用語を使わずに説明して」と問います。「短距離」「陸上競技」と答えるのはもちろんダメで、「人より速く走る競走」と答えても、それは職業じゃない。そう考えていくと「人より速く走って活躍し、応援してくれる人を増やす」ことで企業経営に貢献する、という仕事としての目的にたどり着きます。

 これで言うと、例えば「会計士です」「事業開発です」などという答えも分かりにくい。自分のキャリアをもっと伝わる言葉に換えて、次の世代への行動支援になって欲しいと願っています。それがその人の価値にもつながっていきますよね。

 僕は今、子どもたちにスポーツを指導して楽しさを伝えたり、志に共感するベンチャー企業への投資をしたりしています。そしてまた、これからは一つの組織や企業から、もっと自由に歩き出す仕事人が増えればと望んでいます。なぜなら、自分の力をもっと試して眠っている可能性を知って欲しいからです。(談)

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