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07月03日朝日新聞デジタル朝刊記事一覧へ(朝5時更新)

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東京を追う時代は終わった

 

 僕が学長を務める東北芸術工科大学がある山形は、大自然に恵まれたのどかで美しい所です。と同時に少子高齢化など、日本のどこの地域でも直面する様々な社会課題に恐らく10年は早く向き合っています。いわば山形は日本の未来の姿。芸工大の学生と教員は、地元の人たちと一緒になってこれまで幾つもそんな課題に立ち向かってきました。

 例えば今は、新たなにぎわいを創出するため、中心市街地の空き家を学生寮に改修し、エリア一帯を学生街という商圏にするプロジェクトを山形大学と連携して進めています。そして将来的にはここを高齢者住宅にしたい。車に乗らなくても暮らせる便利な生活圏になるはずだからです。

 東京の幻影を追いかけて、インフラ整備に力を注ぐ時代は終わりました。これからの街づくりはむしろ自然豊かで、熟成された文化があることを誇りにし、人口が減少しても素敵な街であり続けるにはどうすればいいのかといった視点で取り組むことが大切です。それが最善の課題解決になっていくと思います。

 芸工大には、今の山形でこうした社会課題に取り組むのが面白そうだと感じてくれた現役のプロクリエーターたちが、教員として多数集まってくれています。頼もしい限りです。ただ、本学は従来の大学とは教員の業務がかなり違う。まず助手制度がないので授業の準備などは全て教員が一人で担います。他大学で教えた経験のある人は大抵驚かれます。

 当然、教員の仕事量は増える。彼らはクリエーターとして自身の仕事も抱えていますが、忙しいからといって教員職をおろそかにされないよう「あなたの本業はあくまで学生指導です」と伝えています。高校生へのプロモーションと卒業生の進路にも責任を持って頂いている。もちろん僕も授業を持っているので同じことを自分にも課しています。

 

学長も動いてなんぼ!

 

 このように芸工大は山形という場で、第一線で活躍するクリエーターの授業が受けられることが最大のウリです。でも、新型コロナウイルスが世界で感染拡大し始めた今年2月、それがアダになるかも知れないと初めて懸念を抱きました。教員の大半が東京に拠点を置いているからです。そして、ちょうどニュージーランドで1人目の感染者が出て翌月にロックダウンした頃、その様子を見て日本も近いうちにこうなると予測し、全教員に東京か山形に残るかの選択をお願いしました。

 その上でいち早くリモート授業の準備を始めてもらったのですが、時間のない中、教員たちはユニークなものをたくさん生み出してくれました。いずれも今後の授業の在り方を示唆する素晴らしいものばかり。思わぬ副産物でした。また、僕は入学式もなくなった新入生のことが気になっていましたが、「彼らに楽しい話題を提供したい」というスタッフの発案もあり、僕は各学部学科を訪問して紹介動画を作りました。

 こんな風に現場をディレクションするなど、プレイングマネジャーとして学内を動き回ることこそが学長の仕事だと思っています。それを自由にやらせてくれる芸工大と山形の度量の深さに感謝しています。(談)

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