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10月22日朝日新聞デジタル朝刊記事一覧へ(朝5時更新)

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コラボレーションの勧め


 大学卒業後は外務省に入り、数年して在フィンランド日本国大使館勤務となりました。ある日、他国の女性外交官と仕事をすることになり、初対面で「あなたとは友だちになれない」と明言され驚きました。それは「あなたたち日本人は神様を信じないから」という彼女の信心深さからで、世界には多くの価値観があると知りました。また、フィンランドを訪れる日本の政治家や要人などは通訳なしでは相手側と話せない人がほとんどで、わずかな内容は世間話ばかり。肝心の「対話」をせずに帰国する場にもずいぶん居合わせました。



 こんなことから僕は日本の将来に不安を募らせましたが、フィンランドの友人から教育で自国は変われたと聞き、外務省を辞めて、フィンランドの教育方法を学び始めました。算数や国語を、多様化する世界で生きる力と関連付けながら教えるという独特の方法です。それを『図解フィンランド・メソッド入門』という本にまとめ、世に問いました。16年前のことです。これをきっかけに国際的な教材開発の技術者となりました。



 日本は「言わなくても分かる」という歴史が長かったため、良くも悪くも国際的なコミュニケーションが苦手です。相手から「私の気持ちが全然分かっていない」と言われると、分からない自分が悪いような気がしてしまう。しかし言語や文化が違うのだから、そう言われても「そう、分からない。だから私に分かるように言ってくれ」と答えるしかない。ただ、相手が言ってくれたからといって、それが分かるとも限らない。これが多様化する世界の現実です。



 でもここに、仕事で多様性を活(い)かすヒントがあります。同じ目標を目指す仲間でも、完全には分かりあえない部分があるからこそ多様な価値観や信念を活かしうる。これがコラボレーションです。コラボレーションに必要なのは、自分を更新し続けること。相手の異質な行動や考えに触れる度に、自分も「ああすれば良かったのでは」「こう考えれば良かったのでは」と振り返り、次の行動に活かすことによって自分を更新し続けることができます。


こだわりより次のベストを探す


 価値観や信念の違う人と同じ目標を目指す。僕は、友人がヨーロッパから帰国する時にそれを体験したと聞きました。彼は愛猫も一緒にと決めていたのですが、ペットは他の様々な動物とペット用貨物室に入れられ、まるで虐待だと。さらに、日本の検疫はとても厳しく数カ月留め置かれる例もある。「弱った」とその国の知人にぶつけたら、「安楽死させるべきだ」と言われたそうです。



 動物に無用な苦痛を与えるのは虐待。それよりも、生殺与奪の権を持つ人間が責任をもって安楽死させるべきだと。友人は仰天したそうですが、連れて帰ることは譲れない。議論は決裂したけれど、ヨーロッパの知人は航空会社や日本の検疫制度を調べ上げ、愛猫を機内に持ち込み検疫も簡単に済むよう手配してくれたそうです。互いに信念は譲らない、けれど愛猫の苦痛を和らげるような次のベストを探したのですね。



 次週は、「最も異質な社会集団」と言える有人宇宙船での協働をテーマにお伝えします。(談)

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