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不本意な人事こそ、逆バネのチャンス

AERA:2009年4月20日号

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 4月は新配属の季節。不本意な人事に肩を落としている人もいるはず。だが、今活躍する人たちは、不遇な経験を利用して成長していた。(AERA編集部 木村恵子、加藤勇介)

 大学院での専攻は「ワイン酵母の研究」。ぶどう産地の山梨県出身ということもあり、ワインの開発をずっと夢見てきた。卒業旅行も同級生3人とワイン大国フランスへ。本場の味をテイスティングしながら、心に誓った。「会社に入ったら、俺のワインを作ってやるぞ!」

 小林弘憲さん(34)は1999年に大手ワインメーカーのメルシャンに入社した。独身寮に入った時、ワイン開発に携わる先輩に積極的にあいさつ回りをして、これからの仕事に備えた。

 だが。1週間の新人研修の後に手渡された辞令は「中央研究所第一研究室」。「酒類」という言葉が見あたらない。配属先は医薬・化学品事業部。メルシャンがメーンのワイン事業とは別に長年取り組む、薬開発に使う微生物の研究をする部署だった。「メルシャンといえばワインの会社だとしか思っていなかったのに、なんでこんな仕事をしなければいけないんだろうって、最初は悩みました」

 卒業旅行に一緒に行き、同業他社へ入社した友人たちは、目標通りワインの開発に携わっていた。「今年のぶどうの品質は……」「いま手がけているワインの特徴は……」

 そんな話題で盛り上がる友人たちが羨ましかった。一方自分は、西表島や台湾で、はしゃぐ水着姿のカップルを横目に、長袖、長ズボン、手袋の完全武装で密林に分け入り、微生物を採取するため土を掘っていた。

 一体自分が何をしたというのか−−やり場のない思いがもやもやと胸に渦巻いていた。

 ●自分が木っ端微塵に

 化学メーカー勤務の男性(28)も数年前、いきなり地方工場への出向を言い渡され愕然とした。就職氷河期世代。厳しい時代を肌で感じていたからこそ、仕事に手を抜いたことはなかったし、成長したい思いもあったから休み返上で働いてもいいとさえ思っていた。それなのに。「自分を支えていたものがガタガタと崩れ、木っ端微塵になるような感じさえしました」

 人事は会社全体の事情があるし、自分みたいな下っ端のことなんていちいち考えられないのもわかっているつもりだ。でも、同期みんなが出向しているわけではない。なぜ自分だけが……と恨めしく思った。

 出向先の工場は地元採用の高卒社員がほとんど。休憩時間はパチンコや風俗の話ばかりで、キャリアアップを目指す自分とは話が合わない。数少ない出向社員は、自分以外、本社でお荷物になった中高年ばかり。「社内では『若いうちの地方経験こそが成長に繋がる』と言われているけど、この状況でどうやって信じろと言うんですか」まだ入社数年だったのに、転職が頭を過った。

 ●異分野で学んだ新発想

 会社員にとって、異動は一大事だ。希望部署への異動は評価の表れでもあるから、仕事に対するモチベーションも上がる。だが、望まない部署への不本意な人事は、仕事ぶりへ容赦なくNOと突きつけられる宣告書のようだ。単にやりたい仕事ができないだけではない。自分自身を全否定された気持ちにもなる。

 でも、企業では人事がすべての人の思い通りにいくことなどない。希望と違う、なんで自分がこんな仕事を……と文句を言っているだけなら、それで終わりだ。苦労を、悔しさをバネに次に繋げた人たちは、「不遇職場」で何かを掴んでいた。

 前出の小林さんは土を掘り返して微生物探しを半年くらい続けるうちに、新しい知識を得る面白さに気づいた。

 目前の仕事に懸命に取り組みながらも、ワイン部門への異動のチャンスを窺った。入社2年目の冬。研究所の移転を機に研究職の異動希望が募集された。

 通常、研究職は高い専門性が要求されるので部局を超えた異動は少ない。だが、上司にワイン開発への熱意を伝えた。普段の仕事の姿勢も評価されたのか、上司も異動のための折衝に骨を折ってくれた。

 現在の所属はワイン技術開発グループ。最近携わったワインでは、柑橘類に多く含まれる成分「3−メルカプトヘキサノール」を増やし、すっきり感を出した。ワインは経験や感覚に頼って開発することが多いので、香り成分となる物質を特定して注入することは少ない。「異分野にいたから、ワインの常識を破る発想が生まれたんだと思います」

 医薬部門の微生物研究で体得した、現場主義も生きている。密林で土を掘ったからこそ、ワイン部門でも現場に足を運ぶ。ワイナリーやぶどう畑を回り、工場でタンクを洗う。現場が開発の新しい視点をくれる。「医薬部門は慣れない分野だから必死だった。そこで身についた何でも足を動かしてやってみる癖こそが、一番の財産です」

 ●新入社員のつもりで

 化粧品会社のファンケル広報グループで働く中村太郎さん(33)は、3年前に広報への異動を告げられた。「なんで? 畑違いに」

 ずっと営業や商品企画などビジネスの第一線。スタッフ部門への異動は予想外だった。

 異動前まで担当していたローソンへの営業では、社内表彰されるほどの成績。ローソンの担当者に食い込み、コンビニで売れ筋の飲料品に、ファンケルのサプリメントや化粧品の試供品をおまけに付けるプロモーションを敢行した。それまで60センチ分しかもらえなかった陳列棚を、90センチに増やし、最上段を確保。商品のリニューアルも重なり、伸び悩んでいた売り上げは前年比132%になった。

 営業畑での昇進が既定路線だろうと思っていたのに。広報では「グループマネージャー」に昇進したが、仕事内容も想像がつかない初めての部署で、部下はベテランがほとんどだった。

 ニュースリリースの書き方や社内報の作り方など、新入社員になったつもりで何でも質問し、徹底的に部下から学んだ。広報では商品だけでなく、物流システムや社内制度の改革など、多角的な情報が売り込みポイントになることを教えられた。聞く姿勢に徹したことで、部署内での距離も一気に縮まった。

 ●秘書として全社を把握

 最初は「畑違い」と思っていた仕事が、根底では共通していることにも気づいた。会社が主催するゴルフトーナメントのPRを考えた時のこと。社外の人から、グリーン電力でイベントを運営できる情報を聞きつけた。エコイベントとして付加価値を付けてのPRに成功した。「社内外の人脈を生かして情報をキャッチし、新しいアイデアを提案するのは、営業時代から得意だったこと。広報でも営業の経験は生きた。一見キャリアの連続性がないようなことでも、経験は必ず次に繋がるんです」

 同じような経験をしたのは、アメリカン・エキスプレスの二井一美さん。4年前、10年以上勤めたホテル業界から転職し、副社長の秘書業務に就いた。ボスと一緒に海外を飛び回る姿を思い描いたが、現実は違った。

 出張が多い副社長に代わってオフィスに張り付き、問い合わせに応じ、スケジュールを管理する。海外から頻繁に訪れる重要なビジネスパートナーのために、ホテルやレストランを手配し、下見などの準備に追われた。「完璧にフォローするのが仕事。完全な黒衣でした」

 だが、徐々に副社長の考えを先読みできるようになり、副社長が受け取る情報に接するうちに、会社全体のビジネスの流れも見えてきた。一般の社員ではなかなか出会えないマネジメントクラスの人脈もできた。会社全体の部署を把握している能力が買われ、各部署を紹介するビデオのキャスターにも抜擢され、さらに社内に顔が広まった。 

 昨年6月からは、プレミアム会員向けの新サービス開発を担当している。新設ポストに声をかけられたのは、社内人脈のおかげだ。新しいサービスを実現させる時も部署横断的な取り組みができる。何より、交渉の仕方や部下との接し方など、秘書時代に間近で見たトップクラスの仕事ぶりが今も役立っている。

 ●気持ちを保つこと

 人事に詳しい日本総研の寺崎文勝ディレクターは、こう話す。「経営環境が激変した現在は、順風満帆に陽の当たる所だけを歩いてきた人では対応できません。激動の時こそエリートコースから外れた人が、苦労して不遇を乗り切った経験が役立つ」

 名だたる企業のトップにも不遇経験がある。トヨタ自動車元社長で現相談役の奥田碩氏には、周囲から「左遷」と見られた6年半のマニラ勤務経験がある。6月に会長になる東芝の西田厚聰社長はイランの現地法人での採用で、傍流のパソコン畑に約20年も携わった。「不本意でも未来永劫いるわけではない。人事は自分ではコントロールできないので、不本意な部署であっても目標を持って気持ちを保つことが大事。不遇を乗り切れる人はメンタリティの強さも兼ね備えています」

 人事コンサルティング会社「トランストラクチャ」の林明文CEOは、人事で不遇を感じた時には、「計画的不遇」なのか、「真性不遇」なのかを見極める必要があると指摘する。

 ●真性不遇は断ち切ろう

 マネジメント力をつけるには、様々な部署での経験が必要。専門外の部署に飛ばされたと感じる人事でも、会社側が管理職候補として経験を積ませようとして異動させるのは「計画的不遇」。一方で、無計画に職場をたらい回しにされたり、個人の成長を無視した働き方を求められたりするのは「真性不遇」。こういう場合は自分で会社を見切るか、現状を変えるために行動するか、対策が必要という。「目の前の人事だけに右往左往するのではなく、会社が長期的に自分をどう育てようとしているのか、自分のキャリアゴールと合っているのかを見極めて、真の不遇かを判断すべきです」

 外資系コンサル勤務の女性(27)には、「真性不遇」と感じる時代がある。希望する業界ではない担当を持たされた上、週に2、3日は深夜タクシー帰りが続いた。上司に聞いても、「希望なんてあったっけ?」ととぼけられた。周りの同僚も次々と病気で会社を休んだ。

 社内の産業カウンセラーに、働き方を変えるよう直訴した。上司にも粘り強く希望を伝えて、仕事の区切りを機に担当を変えてもらった。今は「脱不遇」で得た自信から、責任ある仕事を任されるまでになった。

 前出の林さんは最近の不況で、多くの会社からリストラのコンサルを依頼される。「不遇を一度も経験したことがない人は打たれ弱い。会社や上司の言うがままで疑問も何も感じたことのないような人は、真っ先にリストラ要員と考えてもいいかもしれません。不遇経験者はむしろ貴重なのです」

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